『彼女の家族』

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夕刻の、薄暗くなり始めた公園の中。
ワンピースを着た小さな女の子が、茂みの中を小走りで抜けていく。
土足厳禁の立札があるが、彼女にとっては今はそれどころではない。
「いたか?」
「さっきは、そっちにいたぞ?」
やや離れた場所から、そんな声が聞こえる。

声が聞こえる距離でも誤魔化せているのは、茂みと言う遮蔽物があればこその話だ。
かと言って、公園の中ならずっと安全という訳でもない。偶然だろうと見つかればそれまでだ。
ただ彼女には当てがあった。その場所までは、もう少しだ。

どうにか辿り着いた。かなり前に閉鎖されたトイレだ。
出入り口は錆だらけの鉄板で塞がれ、およそ入れそうにない。
だが彼女は裏に回る。そこに倉庫があり、扉がついている。
ごつい錠前が縦に2つ取り付けられ、一見、ここも入れないように見える。
「うっ・・・くうっ・・・」
ずりっ。ずりっ。
少女が体全体で押し込んでいくと、コンクリートの床に白い円弧を描きながら、錠前とは反対側が、ゆっくりと奥にずれていく。
この扉は蝶番が壊れていた。強引に押せばそっち側が動くのだ。

「いないじゃないか」
「どこいった!」
「お前はそっちに行け!」
それほど遠くない場所で、また声が聞こえる。
少女は焦る。まだ入れるほどの隙間が空いてない。
蝶番が壊れているので、扉は直接床に着いている。
大人ならさほど苦労もなく動かせる荷重も、まだ8歳の三瀬(みつせ)にとっては強敵だった。

あの男たちに見つかってしまったらどうなるのか。
実は三瀬にはそれが良く判らない。追われている理由がいまひとつはっきりしないからだ。
ただ、誰もかれもが獰猛な雰囲気をむき出しにして彼女を探し回っている。
それに捕まる事に身の危険を感じて、逃げていた。

そもそもの、事の始まりはいつからになるのだろう。
あの家に連れてこられた2年前からか。
周囲の態度が一変した1年前からか。
それともやはり、この逃走の始まった昨日の夜からを本番とすべきだろうか。

昨日、学校から帰ってきた三瀬は、屋敷の門の前に大量に止まったパトカーや警官、そしてカメラを構えた見知らぬ人の群れを見て、帰宅をあきらめいったん距離を開けた。
あの家で営んでいる業種にとり、警察機構は天敵だ。それにここまで堂々と包囲されているのはただ事ではない。
間違いなく素直に中に入れてはくれない。それどころか、そのまま捕まるかもしれない。

三瀬はしばらく周囲をうろうろし、やがて家を離れる。
次に、どうすればよいか思いつかない。そもそも何があったのかすら判らない。
ただ、たむろしている人たちの断片的な会話から、両親と兄は既に逃げた事は判った。
つまり自分は置いて行かれた。最初から連れて逃げる事など考えられていなかったのだろう。

あの両親が何かもくろんでいる時、自分がそれに一枚噛んだ事などない。
いつも蚊帳の外だ。だから誰かが彼女に情報提供をさせようとしても、何も得られはしない。
三瀬は無価値なのだ。

そう彼女自身は思ったが、周囲からどう見られるかはまた別だ。
公園でブランコに座り、これからどうしようと思っている彼女を、派手な色のシャツを着た若い男が見つけた。
手に持った写真と彼女とを見比べ、歓声を上げる。
しかし三瀬は相手が反応を終える前に、既に駆け出していた。
慌てて追いすがる若い男に、三瀬が勢いをつけて放り出したブランコがぶつかって、追跡を妨害してくれた。

公園外に逃げようとした三瀬は、普段、あの屋敷に出入りしているような雰囲気の男が、道に二人ほどうろうろしているのを見つけ、すぐに引き返す。
さっきのが手下だとしたら、今のはもう少し階層が上の者に見える。追っ手の可能性は高い。
公園内を隠れながら進むうちに、追跡者が増える気配があり、三瀬は自分が確実に追われている事を思い知る。
その時にこの扉を見つけた。
焦っていた三瀬は、錠前に気付かずこの扉を開けようとして、故障している事と、その利用法に気づいたのだ。

昨夜はずっと、この倉庫に籠っていた。
入った時に扉から差し込む光で、奥に蛇口があるのは見えていた。
扉を閉めた後、真っ暗になった中、手探りでそれを試すとちゃんと水が出た。
おかげで昨夜は、喉の渇きだけは充分に癒せた。だがもちろん食事は抜きだ。

今朝目が覚めてから、慎重に公園から脱出した。
だれが追跡者か判らないので、できるだけ人目に付かないよう、半ば隠れながら進んでいく。
学校に行こうとしたが無理だった。
あきらかにそれっぽい雰囲気の男たちが周辺に張っていて、教師や生徒、近隣住民に迷惑そうにじろじろ見られている。
友達の家に行くのも危険な気がした。それに下手をしたら友達すら巻き込んでしまいそうだ。

そこで逆に彼女は気づく。
昨日、家に押しかけていたような警察機構の人間を、今の彼女が避ける必要はないのではないかと。
家族が何をしていても、今の彼女は無害な一般人だ。拘束されるかもしれないが、それ以上の危険はないだろう。
それで彼女は自宅に引き返すと、門の前で何かを見張っていた警官に話しかけた。

「こんにちは」
「あ・・・うん? 君は・・・間宮三瀬ちゃん、かな?」
「はい」
「今、帰ってきたのかい? じゃあとりあえず家に入ろうか」
そう言って手を差し出してきたが、彼女はそれより先に門をくぐる。

庭には特に誰もいない。
「へやにいってます」
警官にそう断ると、彼女は奥に向かって駆け出した。
「あ、ちょっと・・・まあいいか」
警官は三瀬の姿を見送ると、携帯電話を内ポケットから取り出す。
「娘が帰ってきた。部屋に行くはずだ、捕まえてくれ」

奥に行ったと見せかけ、庭木の一本に掛けてある梯子を登っていた三瀬は、その警官の行動にため息をついた。
駄目だ。警察も味方ではなかった。
できれば食べ物でも持ち出したいが、屋敷の中にこれ以上いるのは危険すぎる。
木から木を伝うと、屋敷周辺の壁に作ってある抜け穴に辿り着いた。
警備上の制限で、外からは入れないが中からは出られる穴だ。三瀬はそこから脱出した。

本格的に行く所がなくなった。おなかも空いているし、喉も乾いてきた。
喉は何とかなる。よそのお宅の裏で蛇口をこっそり使わせてもらえばいい。良くはないけど非常事態だ。
でもさすがに家に上がり込んで食事を盗むのには抵抗がある。
生きるか死ぬかまで行ったら別だが、まだ死ぬほどではない。

先ほどの警官が、警察機構に僅かに混じっていた敵勢力であり、稀な例外だったと、彼女に知るすべはない。
本当なら、まったく別の派出所に駆け込むなりすれば別の結末があり得たろう。
僅か8歳の三瀬に、そこまで考えるのを期待するのは、いささか酷という物だが。

あてどもなく彷徨った末に公園に戻り、そこで昨日の派手なシャツの若者に見つかってしまう。
その末の、今の状況だ。正直、ここでやり過ごしてもその先に何も展望がない。
それでもまだ、あの恐ろしい男たちに掴まりたくはなかった。

なかなか動かない扉を頑張って押し続けるが、疲労と空腹でもう力が入らない。
だがそこで急に負荷がなくなり、ずりずりっと扉が大きく動いた。
ぎりぎり通れそうな隙間が空いて、少女は無理やりに、そこに体をねじ込む。
すぽっと隙間を抜け、安堵する少女の口が、突然手で塞がれた。
「んっ!? んー!?」
「騒ぐと外の連中が全員来るぞ?」
押し殺した男の声に、騒ぎかけた少女はびくっと震え、声を止める。

「早く閉めろ」
「やってるっすよ」
別の男の声が聞こえ、彼女が苦労してこじ開けた扉があっさり元の位置に戻る。
要するにさっきのは、中からも扉を引っ張られたのだろう。
部屋の中は真っ暗で、扉の四方の隙間から、外の光がわずかに入ってくるだけだ。
その光もふっと消える。

ぱっ。
天井の明かりが点いた。
少女が目を見張る。それは昨日は故障していたはずだ。
スイッチは見つけて、というか探り当てていたが、操作しても点かなかった。

室内には男が3人。後ろから捕まえている男も入れれば4人だ。
まさか待ち伏せされていたとは。
照明は、たぶんこの男達がここで待っている間に何らかの整備をしたのだろう。

一人が、扉のあった位置に大きな木の板をあてがってふさぐ。
外に光を漏らさないためだろう。床に箱っぽい物を置いて、板の重しにしている。
別の一人が、壁際で嬉しそうに言った。
「外じゃ誰も気づいてないっすよ。やりましたね兄貴」
「ふふふ、作戦勝ちだな」
彼女を捕まえている男が、勝ち誇った様に答える。

「んう?」
なんの事だろうと三瀬が、口をふさがれたまま問いかける。
「ここで昨日寝てただろ? 使った痕跡があったから、今日も来るだろうと張っていたのだ」
「んー・・・」
言われてみれば、照明の下だと床の一部だけほこりがなく、蛇口の下に濡れた痕跡もある。
明りの下で見ると判りやすい。
あと、あちこちにごちゃごちゃと物が積んであった。布やマットすらある。
昨夜は何も見えないので床で直接寝たが、この辺の物資が見えていれば、もう少しちゃんと眠れただろう。

これで、とうとう掴まってしまった。
では? これからどうなるのだろう。実は未だに判らない。
昨夜からまともに情報が得られていないのだ。
掴まった以上は仕方がない。あきらめて男たちに聞いてみよう。三瀬は腹をくくる。
「んふう、んーううんうんう?」
「はあ? ・・・手を離すが、騒ぐなよ? 周りにはお前を捕まえたがってるやつがうろうろしてる。ろくな事にならんからな?」
そう念を押し、男が手を離した。すぐに抑え付けられるように構えてはいる。

「わたし、どうなるんですか?」
「案外冷静だな。お前は人質と言うか、交渉用の切り札だな」
「お父さんたちへの?」
「そうだ。なんだ、良く判ってるじゃないか」
「でも、お父さんたち、なにしたんでしょう。どうしておうちに、いっぱいおまわりさんがいるんでしょう」
「・・・なんだ、何も判ってないのか」
「はい。おしえてください」

冷静も何も、具体的に何か危険があるのかすら、彼女は知らないのだ。
ただ、あの血走った眼の男たちに掴まったら駄目な気がしただけだ。
もっとも、この部屋の男たちからも似たような気配はするが、それでもいきなり拷問されたりはしていない。
だから、聞くだけなら問題はないはずだ。

「お前のとこに、お前と似たような年の男の子がいたよな?」
「お兄さんのことですね? います」
「お前の親父が、一年前に養子を貰ったんだよな?」
「・・・はい」
彼女は、その出来事には色々と思うことがあった。

三瀬は、最初からあの屋敷に住んでいた訳ではない。
ずっと遠くにあったアパートで、母一人子一人だけの、貧しく、でもそれなりに幸せな暮らしをしていた。
それが2年前、2人そろってほとんど誘拐同然であの屋敷に連れて来られてしまったのだ。
そこにいた男が彼女の父親で、母は、平たく言えばその、元愛人だった。
昔、男が避妊に失敗して母が三瀬を身ごもり、結局追い出されてしまったのだ。

だが男のほうが最近、コウソウとやらで跡継ぎの予定の子供が皆死んでしまった。
それで、たしかこいつには子供が居たはずと、急きょ三瀬達が探し出され、連れてこられた。

三瀬が女の子だったのは先方には期待外れだった様だ。
それでも、居ないよりましという事で、そのまま屋敷に住まわされた。
実は三瀬にとり、その出来事は幸いだと思えた。少し前から母が体調を酷く崩していたからだ。
これでちゃんと治療をしてもらえるはずだと期待したのだ。

だが彼女の母はそれから間もなく、あっけなく死んでしまった。
悪性の病気だったらしいが、十分な治療をされたのかどうか三瀬には判らなかった。
そしてその後も、彼女は微妙に居心地が悪いまま、屋敷に残され、そこから学校にも通っていた。

そして1年前。
あの屋敷にいた男の妻、現在の三瀬の義理の母は、もう子供を産めなくなってしまったそうだ。
だからこそ、男と血のつながった三瀬を母子ともども探して連れてきた。
そのはずなのに、1年前に唐突に、養子を連れてきた。
三瀬にすれば、最初からそうしてくれれば良かったのにと思ってしまう話だった。

その養子は、三瀬より少し年上の男の子だが、誰から見ても判るほど優秀だった。
数か国語を操り、各種学問に通じ、芸術的才能すら持っていた。
ただし性格には難ありらしく、やたら尊大で、周囲の人間を顎で使うのに慣れていた。

不思議だったのが、彼は学校に行かなかった。
ずっと屋敷に閉じこもり、積み上げた本を読みふけり、父親に時々教えを乞い、後はテレビを見て、時々ゲームをするだけだ。
ごくたまに、外出したそうな事を言っていた。実は何かの理由で軟禁されていたのかもしれない。

そしてどうやら、彼が正式な跡継ぎとして扱われるようになったらしい。
三瀬の立場はなくなり、住む部屋も屋敷の離れに移された。
離れと言っても物置同然の粗末な、小屋よりはまし程度の場所で、空調すらない。
使用人の一部は、彼女を既に遣える相手と見なさなくなっており、与えられる食事も滞りがちになっていた。
三瀬が飢えるほどではなかったにせよ。

彼女の義理の兄は、当然の如く三瀬を見下した態度を取っていた。
使用人へと同じように彼女にも平気で命令した。
ただよく判らないのは、たまに妙に優しかったり、彼女を羨ましそうに見る事だ。
尊大な態度も、良く見ているといまいち一貫性がなく、本来の性格はもっと別なのではと思う事も多々あった。
どのみち大抵の時は、彼女に対して高圧的に振舞うだけなので、真相がどうであろうと状況的には変わらなかったが。

最近両親から、いずれお前にはあいつの性処理をしてもらうと言われた。
彼女は余計な反論はせず、ただ、はいと答えただけだ。
つまり今後も彼女はこの屋敷に留められると決まったのだ。立場は最低だったが。
そこまでされても彼女には、屋敷を出る選択肢はなかった。
実際にはあったかもしれないが、幼い三瀬にはそれを思いつかなかった。

「あれがやばかったんだよ」
「お兄さんがですか?」
「あれな、人身売買組織から買った子供なのさ」
「・・・え?」
「鬼のように優秀だったそうだな。その組織は商品の中でが客の注文に見合った奴を選んで、調教してから渡す事もやってたんだよ」
「ちゅうもん・・・するんですか・・・」

ならば、三瀬と母を拉致した頃にはもう、あの兄を注文済みだったのかもしれない。
そうなると、三瀬は本気で只の保険だったのだ。
それなら母は満足な治療をされなかったのだろうなと考え、父親への怒りが湧いてくる。

「でもまあ、それはちょくちょくある話だ」
「・・・あるんですか」
「今回話が違うのは、その男の子の本当の親が、大物だったのさ」
「・・・?」
「もちろん親が売り払ったんじゃないぜ。売買目的で誘拐されたんだ。そんな大物の子だと知らずに」
「それなら大さわぎに・・・」
「親は営利誘拐だと思ったから沈黙して連絡を待ちつつ、そっちの線でひそかに捜索した。まさか稀な偶然が起きて、そこらの貧乏人の売買に混じってるとは思わずな」

「今は、それがわかってる・・・?」
「そっちも色々偶然が重なってな。まずその大物がつい最近死んじまった。遺族が遺産相続問題を調べてて、誘拐された子供の存在が判って、各派閥が自分に少しでも利益を誘導しようと頑張った」
「え・・・」
つまりあの兄の本当の親は、兄に会えないままに死んでしまったという事だ。

「そんでな、簡単に言うと親族の一人が問題の人身売買組織の客になったことがあって、非合法だろうとなりふり構わず調べたら、そっちの線で、その誘拐された子がどこにいるかまで、いっぺんに判っちまった」
「それが・・・お兄さん、なんですね?」
文脈的にはそれしかありえないが、三瀬は確認するように聞き、そしてリーダーが答える。
「そう言ってるだろ?」

三瀬にも今の面倒な状況が判ってきた。
あの兄には、その死んだ大物の遺産を受け取る権利があるのだろう。それは確かに大騒ぎだ。

まず両親が、非合法にその男の子を入手した事が問題になる。実際になったのだろう。
あの両親程度では対抗できないような大きな力も加わったはずだ。
人身売買だけであの大量のパトカーが来るかどうか怪しい。便乗して色々暴露されたのかもしれない。
また、逆の事も考えられる。
その子の親は今は自分たちだからと開き直り、何とか利益にありつく算段を始めたかもしれない。

周囲も大騒ぎだ。
その男の子を押さえれば大物の親族にパイプを作れる可能性があるし、お零れにありつけるかもしれない。
いささか無謀だが、その子を抱え込んで人質的な利用すらできるかもしれない。
だがそのためにはまず、逃げ出した3人、最低でも兄は捕まえねばならない。

「ここまで言えば判るな? 逃げた3人に繋がるお前には、切り札として価値があるのさ」
「わかります」

理屈は判ったが、たぶん無駄だろう。
あの両親は三瀬に価値を感じていない。置き去りにされたのがいい証拠だ。
つまり、彼女は切り札でもなんでもない。
交渉で引き合いに出しても、それがなにか? と蹴られて終わりだろう。

でも、ここでそれをわざわざ相手に教えるメリットはない。
いずればれるにしても、今そうする必要はない。
苦労して彼女を捕まえたのなら、もし価値なしと見なされた場合に、あっさり解放としてくれるとは思えないのだ。

「そういう訳で、周りの余分な奴がいなくなるまでここでしばらく待つ」
「はい・・・」
「騒ぐなよ? 他の連中まで来ちまって争奪戦になったら、お前の安全は保障できんぞ。銃持ってるやつが普通に居るからな」
「はい」
「よしよし、物わかりのいい奴は嫌いじゃないぜ」

話は一段落し、今度は男同士が小声で雑談を始めた。
会話から判断すると、三瀬の口を押えていた男が一応4人のリーダー格らしい。
そして会話の内容はもっぱら、この手柄でどんな褒美が貰えるかだ。

倉庫の隅に座ってそれを聞きながら、三瀬はおなかが空いたなと思った。
もう丸一日以上何も食べてない。
でも男たちが食べ物を持っている様にも見えないし、まさかここを出て買い物にいく危険を冒すとも思えない。
だから彼女は黙ったまま、じっと空腹に耐えていた。

それからどれほどかの時間が経過した頃。
壁に寄りかかってうつらうつら居眠りしていた三瀬は、誰かの大声によって起こされる。
「確かか!?」
リーダーが携帯電話を耳に当てて、声を荒げていた。
「・・・く・・・なんて・・・判った・・・ああ・・・ありがとう」
通話を打ちきると、リーダーが三瀬を睨み付ける。
その視線に胸騒ぎを感じつつ、彼女は問いかけてみた。
「どうしたんですか」
「お前の親が死んだ。問題の子供もだ」
「しん、だ?」
「飛行機をチャーターして逃げたが、途中で何かあったらしい。進路を無理に変えようとしてしくじったんじゃないかって話だ。死体も確認できた」
「・・・しんだ・・・」

両親の死は悲しくもない。もともと親子の情のある相手ではない。むしろ母の件では恨みすらある。
兄は可哀そうだと思った。結局彼は最後まで自分のために生きられなかった。
でもひょっとすると、その事故は、逃走中に兄が何かした結果かもしれない。
彼は自分の境遇に納得いかないようだったから。

「つまり、お前にはもう、価値がないんだ・・・くっそおおおおおっ!」
男が悔しげに叫ぶ。もう外への配慮はしていないようだ。
あるいは外に邪魔者がいなくなって、移動しようと連絡を取って情報を知ったのかもれない。

「ど、どうするんです、兄貴?」
「まいったな・・・いろいろやったのに無駄足かよ・・・」
「どーすんだこいつ。使い道ないだろ?」
部下3人が口々に言う。リーダーは顔をしかめて応えた。
「・・・仕方ない。せめてもの鬱憤晴らしだ。やっちまえ」
「やるって?」

部下の一人の質問には答えず、リーダーが大股で三瀬の所にやってくる。
「死にたくないなら抵抗するなよ? こっちは全員気が立ってるんだからな?」

暴行を受けるのは、もうどうあっても避けられないようだ。
もともと彼女には相手が思うような価値はなかったが、現状は、そうだとばれた時よりは相手の心象はましだろう。
それでどの程度手加減してもらえるかは判らない。同じかもしれない。
けれど、死にたくなければとわざわざ言ったのだ。殺す気はないらしい。
だったらもう、仕方ない。
三瀬は全てをあきらめ、大人しく頷いた。
「・・・はい」

 * * *

四つんばいで、三瀬は男のペニスを銜えさせられていた。
最初、匂いのために少し抵抗したせいで、今は顔をつかまれ、半ば無理やり口の中に突き込まれている。
「う、うう・・・」
もう逃げる気はないのだが離してはもらえない。かなり深くまで突きこまれて苦しい。

お尻の方ではワンピースがめくり上げられ、ぱんつをずりおろされ、むき出しの性器を別の男に弄くられている。
「さっすがにきれーな色してんなあ」
そこを指で広げ、中をいじくって鑑賞しながら若い男が感心したように言った。
少し離れた場所で椅子に座っていたリーダーが釘をさす。
「俺が処女貰うんだからな。中に指突っ込むなよ」
「判ってるよ兄貴。うーん、やっぱいつもお小遣いくれるおばちゃんとだいぶ違うわ」
「誰と比べてんだよ」
すぐ横から覗き込んでる別の男が、あきれたように言った。

三瀬にペニスを銜えさせている男が、笑って言う。
「そりゃお子様だからなあ。口も小さくていい感じぜ?」
その下で少女が小さくうめく。
「んぐ・・・う、うっ」

予想通りというか、それしかないというか、男達の選択は、彼女の体を使っての鬱憤晴らしだった。
男たちも最初は、幼すぎる三瀬にどう手を出すか躊躇っていたが、結局は本能の赴くままに蹂躙し始める。
三瀬にとっては、予想できない展開ではなかった。
むしろ、そういう暴行を受ける可能性を考えたから、これまで逃げ回っていたのだから。

子供でも多少はそういう知識を得る機会はある。
しかも三瀬はあの屋敷で、彼女の観点からすると非道な行為とも思える出来事をしばしば目撃していた。
明日は我が身かもしれない、という発想は自然に生まれる。
むしろ、この現状はまだましかもしれない。
もっと暴力的な行為を受ける可能性だってあった。性的な蹂躙で済むなら御の字かもしれない。

「けほっ、けほ、けほっ」
口の中に出された精液を、飲み込む時にしくじり、咳き込んでいる三瀬にリーダーが言い放つ。
「本番行くか」
「けほっ・・・はぁ・・・はぁ・・・ほんばん?」
「椅子に上がって来い」
彼は今、三瀬たちのすぐ横で、倉庫にあった手すり付きの椅子に座っている。
「はい・・・けほっ・・・」
まだ咳き込んでいる三瀬は椅子に上がりこんだ。

リーダーがズボンのファスナーを下ろし、怒張したペニスをぶるんっと解き放つ。
それを掴んで上に向ける。彼の体基準だと、少し押し下げた状態だ。
それから腰を、椅子の端がわ、浅い方にずらした。
「パンツ脱いで、この上にまたがれ」
「けほっ・・・こ、ここ・・・?」
「そうだ」
男は彼女の中に入れたいのだろう。つまりペニスの真上でしゃがめと言われているのだ。
三瀬が進んでそうしたい訳ではなくても、するしかない。逆らう訳にいかない。

不安定な椅子の上で、三瀬は落ちないように手すりにつかまってぱんつを脱ぐ。
脱いだぱんつは横に居た男が毟るように奪っていった。
ワンピースの下は裸になってしまった三瀬に、リーダーが次の指示を出す。
「じゃあ、その位置でしゃがめ」
「・・・はい」
男の体を踏むわけに行かない。それをまたぐために、大きく足を広げた姿勢になっている。
そこでしゃがみ込むと、彼女の性器にもろにペニスが当たってしまう。
それが判っていても、そうするしかない。

その横では、ぱんつをもって言った男がそれを顔に当て、匂いをかいでいた。
「いい匂いだ。メスガキ臭いわ」
「なんだ、好きなら後でやるよ。その辺に置いとけ」
「了解です」
ぽん、と三瀬の頭にそのぱんつが乗っけられる。

下着をそんな所に置かれるのは普通だったらいい気はしないが、三瀬としては今はそれどころではない。
転げ落ちないように手すりを持って、腰を下げている途中なのだ。
不安定な姿勢なのだ。手すりにつかまってないとあっけなく転びそうだ。

つん、と少女の股間に亀頭が触れた。
だが、そのままするっと入るはずもない。
だいたいそのペニスは大きすぎる様に三瀬には思えた。最初から無理としか思えない。
「どうした」
「・・・はいらないです」
「ちょっと待て」
男が握ったペニスを少しずつ動かし、少女の性器にはまり込む場所にあてがった。
「よし、もっと腰を下げろ」
「でも」
「下げろ」

これ以上逆らえない。少女は再度腰を下げようとする。
するとさっきと違い、何かが体の中にめり込んでくる感触がある。
「・・・うっ?」
「入るじゃないか。もっと下げろ」
「・・・は、はい・・・」
めりっ。小さな場所がこじ開けられ、ぷつんっと何かが切れる感触があった。
三瀬は痛みで泣きそうな顔になり、思わず腰を止める。

「止めるな。もっと体を下げろ」
「・・・ふぐっ・・・は、ひゃい・・・」
三瀬はとうとう泣き出したが、相手が容赦してくれる気配はない。
泣き顔で、体を下げようとする。
みしっ。大事な場所がこじ開けられてきしみ、痛みが更に強くなる。
もう体が素直にいう事を聞いてくれない。

「足が駄目だな」
不意にそんな事を言われ、両方の足首をぱんっと外側に強く払われた。
しゃがみこんだ不安定な姿勢だ。あっけなく足が椅子から外れ、支えを失った彼女の体が沈む。

ずんっ!
めりめりめり、ぶつんっ!
体重が股間に掛かり、ペニスが抵抗を突き破って一気に膣を貫ぬく。
「・・・っ!!」
三瀬が悶絶し、体が痙攣する。声すら出せない。
「いてて。馬鹿野郎、もっとゆっくり下げろ」
自分のやった事を棚に上げ、男が三瀬を罵倒する。
「・・・ひっ・・・ひぃ・・・たすけて・・・しんじゃう・・・」
やっと声が出せるようになった彼女が、切羽詰った声で助けを求める。
今ので自分の体がひどく壊れてしまった様に感じたのだ。

「ああ? こんくらいで死ぬかよ。我慢しろ」
「ひいん・・・いたい・・・よぉ・・・」
「うるさいよ。ああ、お前ら口塞いじまえ」
「ほいさ」
泣きじゃくる少女の口に、さっきとは別のペニスが突っ込まれた。

「ううっ・・・うぐう・・・」
口を塞がれたまま泣く少女に、リーダーの威圧的な声が飛ぶ。
「おい、自分で動け。判ってんのか? 俺達の機嫌を取らなきゃお前、すぐに殺されちまうぞ?」
「んうっ・・・」
直接的な脅し文句に、少女が息をのむ。
実際問題として、折角の鬱憤晴らしに使っている獲物を容易く途中で殺す事はないだろう。
だが少女の立場は圧倒的に弱い。その脅しを無視できない。

泣きながら、悠里は体を前後に小さく揺する。
その動きだけで痛くて、また涙が出る。
「んっ、うー・・・うん、うんっ・・・」
「そうそう、がんばれ。そうだ、どんな具合に繋がってるか見せてみな」
「う、う?」
「服、めくってみせろよ」
「うーっ・・・うーっ・・・」
しゃくりあげながらも、三瀬は相手の指示通りにワンピースのすそを掴み、めくる。
口にペニスを突っ込まれたままで顔を動かせないので、半分手探りだ。

「根元までずっぽり入ってるな。血だらけだ。でもこれじゃ、初物かどうかも判らんな」
リーダーが面白がって言った。三瀬が「血だらけ」の単語に反応する。
「ん、んふ、んんっ、んーー!」
ぶるぶると震え、余計に涙が出る。やはり死んでしまうではないかと。
「もっと抉ってやろうか。ほらほら」
少女の反応を面白がって、リーダーがからかいながら下から揺さぶる。
「うぐん、う、うぐううっ、うーっ」

やめて、やめて、いたい、こわれる、死んじゃう。

口が自由だったら、そう泣き叫んでいただろう。
今出来るのは苦悶の表情で、喉からうなり声を出すだけだ。
股間から、ぐちゅぐちゅと湿った音が聞こえる。そこがどうなっているかは彼女からは見えない。
だから余計でも不安が増す。
血がどんどん出ているのではないか、裂けてしまっているのではないかと。

実際には、血はそこそこ派手に飛び散ってはいたが。量的にはさほどではない。
小さな性器は、相対的に大きなペニスが無理やりねじ込まれ、形が変わるほど中から膨らんでいるが、裂けてはいない。
もっとも外がそうだという話だ。
内は粘膜がひどく裂けてしまったので、ペニスを動かされると激痛が走る。
三瀬にすれば、そこから真っ二つにされていく程にも感じられてしまう。

いたいよぉ・・・お母ちゃん・・・たすけて・・・

口をふさがれたまま泣く三瀬に、横から別の男の声がした。
「俺も相手してくれ、暇だ」
三瀬には誰が誰か判らない。元々知らない男達だから仕方がない。
ワンピースの裾を持つ手が片方引っ張られて外され、何か暖かいものを握らされる。
「ほら、握ってこすれ。死にたくないよな? 頑張って手を動かせ」
「う、うー・・・」
涙目で、三瀬がそのペニスをしごき始める。

頭に何かが当たった。ぺとん、ぺとんと繰り返し叩きつけられる。
「リーダー、次は俺がコレ入れていいですか」
「構わんが、お前はさっき口を使っただろう。順番はお前の間で調整しろよ? さすがに2人いっぺんに入れたら壊れるぞ?」
「穴違いなら行けませんか?」
「・・・無理だろうな、今でもかなり狭い」
腰を揺らしながら、三瀬の下でリーダーが答える。それから少女に話しかけた。
「ほら、頑張って腰を動かしな。まずは俺がお前の中に出さんと、何も終わらないからな?」
「んぐっ・・・う、ん、うふぅ・・・・」
くぐもった声を漏らしながら、三瀬は腰を動かす。
そうやって動かすだけで泣くほど痛い。もう既に泣いているが。

「うぶっ・・・」
唇の隙間から精液が毀れた。咥えていたペニスに口の中で出されてしまった。
飲めと言われているし、もはや逆らう気もないが、これだけ集中して責められると、もう頭が追いつかない。
口から精液を零しながら、三瀬は必死に痛みに耐え、腰を動かし続ける。

「なあ、終わったのならこっちを咥えさせろよ」
「待て、いま飲ませてるんだ、ちょっと待て」
左右の口論を聞く余裕もない三瀬の体の奥が、不意に軽く叩かれた。思わず小さくびくつく。
あ・・・?
これ・・・判る・・・知ってる・・・
三瀬はかすかにそう思った。

やっと射精をしたものの、リーダーは三瀬を離さず、腰を揺さぶり続ける。
はたからは射精したのが見えないので、ずるいという声は出ない。
三瀬は与えられる痛みにのけ反る。そのはずみで口からペニスが外れた。
「い、いたい、いたいっ」
「子供のくせに思ったよりいい感じだな。これはこれで使い道ありそうだ」
「やはぁっ・・・いたいよぉ・・・」
泣き叫ぶ三瀬を見ながらリーダーがほくそ笑む。


その数時間後。
男たちは、適当にあちこち脱いだ気ままな格好で床に座り込んでいた。
ズボンを脱いでいる男もいる。誰も彼も皆ペニスがむき出しだ。

その間では、三瀬がマットの上にぐんにゃりと弛緩して転がっている。
ワンピースは脱がされて全裸だ。あちこちに男の体液が付き、ゆるく開いた股の間の性器は、繰り返しの暴行で腫れ上がっていた。そこからも精液がじわじわと溢れている。
なおワンピースとぱんつは、例の男がちゃっかり持っていってどこかに隠されてしまった。

三瀬は浅い息をしているだけだった。
もう力が入らない。体力は完全に尽きている。
男達から連続して暴行され、その途中で彼女は一度、ほぼ反応しなくなっていた。
苦しくて朦朧とする意識の中で、彼女はこのまま死ぬんだと思った。

輪姦を続けられていれば、本当に死んだかもしれない。
幸い男達がそこで一度止めたので、かろうじて生き延びてはいる。
休んで多少回復した所で、2回目の輪姦が始まってしまったが。

空腹はもう気にならなかった。別に飲まされた精液で腹が膨れたからではない。
単にそれ以上の過酷な目にあって、空腹感を気にする余裕が消えてしまっただけだ。
一歩間違えたら死ぬ状況では。まさにそれどころではない。

そして今は、休憩を挟んでの3回目の輪姦がやっと終わって、しばらく経った頃だ。
リーダーがズボンを履き直しながら言う。
「そろそろ出るぞ」
「あ、はい、兄貴」
他の男達もだるそうに立ち上がり、服を直し始める。さすがに男の方も疲れている様子だ。
「そんでコレどうするんで?」
若い男が三瀬を指差して言った。
「俺が持って帰る。案外いい感じだから、家で飼う事にした」
「あ、いーなー兄貴、俺達にも今度使わせて下さいよ」
「気が向いたらな。とりあえず縛って袋に突っ込んでおけ。口もふさいどけよ」

そこらのぼろきれで簡単に体を拭かれた後、そのぼろきれを口に突っ込まれ、上から猿轡を噛まされる。
縄で適当に縛られ、麻袋に放り込まれて視界を失った後、扉を開ける音がした、
この少女の本来の価値はもう消えているが、情報を持たない連中に絡まれては面倒だ。
最低でも姿は見せない方がいい。男達はそういう警戒をしたのだろうが、杞憂だった。
情報はすでに拡散済みなのだろう。既に張っている者は残っておらず、彼女はそのまま何事もなく運ばれていった。

 * * *

彼女が連れ込まれたのは、宣言された通りにリーダーの家だった。
彼はさほど裕福ではないとしても、ただの三下ではなく、それ相応の立場にあった。
その家は、さほど大きくないがちゃんとした一軒家だったし、しかも地下室付きだ。
独身で基本は一人暮らしなのだが、中年女の家政婦が通いで家事を賄っていた。

三瀬は地下室に監禁される。
地下と言っても座敷牢のような、いかにもな雰囲気の部屋ではない。
窓は当然なく、大き目の換気口が付いているが、八畳ほどある普通の部屋だった。
ただし三瀬を収容後に扉は常時施錠され、食事は家政婦が毎回運んだ。

その家で彼女がやらされる事は、倉庫の時と質的には同じで、リーダーや手下の性欲処理の道具だ。
体を好奇心の赴くままに弄繰り回され、性欲を吐き出される。
抵抗は許されない。三瀬はリーダーの性奴隷にされたのだ。

倉庫の時と違って制約がないので、変態的な行為だろうとやり放題だ。
三瀬はここで、人生で初めて浣腸されてしまい、更に肛門を犯された。
いわゆる大人の玩具も使われた。
張り型やバイブレーター、縄、三角木馬、膣鏡、他様々な器具で色々な事をされた。
何度か薬も飲まされ、あるいは体の中に塗り込まれてしまった。

結果的には、特殊な行為のほとんどが、長続きしなかった。
三瀬は何をされても、ひたすら痛がって泣きじゃくるだけなのだ。
反応が同じだと、する側の新鮮味がなくなれば、ただの面倒な作業に過ぎない。
二か月ほども経過した頃には、彼女にさせる事やする事は、だいたい決まってしまった。

その1つは男に対しての、口での奉仕だ。
単に口にペニスを突っ込んで舐めさせるだけなら最初からやらせていたが、家政婦が「男を悦ばせるためのテクニック」として三瀬にもっと丁寧に仕込んでいったのだ。
途中で何度も、リーダーを実験台に練習もしている。
おかげで上手とは言えないまでも、ちゃんと頑張ってやっていると感心できる程度には上達した。
倉庫の時と違い、受身で銜えるのではなく、自分から舐めたり擦ったりをちゃんとできる様になった。
命じれば嫌がりもせず、従順かつ丁寧にやってくれるので、定番の行為となった。

彼女に対しての行為は、あまり捻らずにただの挿入がほとんどになった。
何度もされた三瀬は、一応は慣れて、入れられただけで死にそうな声を出す事はなくなった。
しかし小さい体がいきなり大きくなるはずもなく、相変わらず酷く痛がり、最後にはだいたい泣き出してしまう。
だが、その泣いている三瀬を犯し続けるのが、リーダーには楽しいようだ。
泣きながらも抵抗はしないし、必死で力を抜こうとし、どうにか痛みを抑えようと足掻く様子が何とも言えずそそるようだ。

実は手下の方は、まだそこまで単純な行為では納得できず、いまだに器具類を使おうとする傾向があった。
三瀬の体でもっと色々遊びたいのだろう。
だが一か月を経過したあたりから、あまり手下は家に来なくなり、二か月が経過してからはまったく来なくなった。
以後は彼女を弄ぶのはリーダーだけで、だから、させられる行為も彼の好みの物だけとなった。
まずは口で奉仕させ、次は幼い体を触りまくり、性器を弄りまわしてから挿入し、あとは存分に犯すのだ。
性器を弄られるだけなら、三瀬はそれほど痛がらない。軽く撫でるだけなら少しは気持ちいいとも思うようだ。
ただそれは、まだ性感と言うより、くすぐられているのに近い様だが。

三瀬の衣装は、彼が遊びやすい物に決まっていた。
透け透けのベビードールと、あとは紐パンを履かされている。
もともと家には裸で運び込まれており、しばらく適当な物を着せていたが、この格好なら、めくるだけで何でもできる。
およそ外出できる恰好ではないが、外に出す気はないので問題はない。

この家に三瀬が連れてこられた当初は、地下室ですべての行為を行っていた。
事が済んだ後に一時的に地上に連れ出し、風呂場で家政婦に体を洗わせ、また地下に戻して監禁し直す。
部屋は結構汚れるので、それは家政婦を定期的に地下に向かわせてやらせていた。

だが、三瀬は特に不満を言うでもなく、抵抗らしい抵抗もせず、家に帰りたがりもしない。
最後については、もう帰る家などなく、ここしか暮らす場所がないという身も蓋もない事情もあったが。
肝心なのは、三瀬はこの家から逃げ出そうというそぶりを一切見せなかった事だ。

リーダーは家政婦に命じ、罠を張らせてみる。
体を洗わせた後、一時的に監視されていない様に見える状況を作ったのだ。
彼女を扉の近くに座らせ、そこには鍵が掛かっていなくて、出ようと思えば出られる様に見せかけた。
数回そんな舞台を整えたが、三瀬はことごとくそれを無視してしまった。
一度など、鍵がかかっておらず、ぶらぶら揺れていた扉を、三瀬自身がちゃんと閉め直してしまった。

それとなく家政婦に話を聞かせると、公的機関、たとえば警察に相当不信感を抱いているらしい。
リーダーとしてはその思い込みをわざわざ訂正してやる事に利点はない。
結論として、こいつには逃げる気がない。リーダーはそう判断した。
そのため一か月が経過した頃には、三瀬は地下室から出され、地上の部屋で軟禁されるだけになった。
以後は事が終わった後、わざわざ家政婦に頼まずとも、三瀬は自分で風呂に入り、体を洗っている。
たまに入浴中にリーダーが乱入してきたりはしたが。

そしてリーダーは、自分が三瀬の身柄を抑えたのを、上に報告しなかった。
もはや利用価値がないのは周知の事実であり、報告しても無意味だからという判断は確かにある。
だがそれより、彼より上位の者に少女を奪われる事を危惧したのだ。
せっかくいい感じの性奴隷を、ある意味でうやむやの内に手に入れたのに、あっさり持って行かれてはたまらない。

結果として、現状は三瀬の所在を把握する者は数人であり、また彼女を探す者もほぼいなかった。
あの日追い掛け回していたリーダーの同業者達にとっては、彼女にはもう価値がない。
警察は関係者として彼女を捜したが、それほど大量の労力を割く理由がない。指名手配犯ではないのだから。
学校の友達は心配しただろうが、具体的に動くだけの情報も伝手もない。

そもそも三瀬の状態がよそに知られていない以上、対外的にはただの行方不明なのだ。
どこかに逃げたのか、掴まったのか、死んだのかすら判断が付かなければ、具体的に動きようがない。
学校の友達も、その親が多少は状況を把握しているので、尋ね人のような張り紙を出す事を子供達に許さなかった。
だから彼女の状況を変える要因はなく、当面はこのままの状況が続く様に思われた。

 * * *

リーダーは三瀬を連れ込んだ当初はほぼ連日、長くても数日おきに三瀬を犯していた。
だがその頃は、合間には少女を放置していた。
ところが次第にリーダーの不在が増え、家にいる時間が短くなっていくと、その反動か、行動が変わってくる。
家に居る間は三瀬に常時そばに居るように命令し、特に行為をしなくてもずっと抱きかかえ、体をいじくるようになった。
不在が多い分、合計だと三瀬が性奴隷としての仕事をしない時間は結局増えていたが。

監禁されなくなってからの彼女は、空き時間に自然と家政婦の手伝いをしていた。
母子家庭で育ったので、幼くても家事一般を手伝った経験はあった。戦力的にはまあまあ使えたのだ。

そしてここ2週間、リーダーがまったく帰ってこない。
「もう、私はいらなくなったんでしょうか」
ザルに盛られた豆の筋を取りながら、三瀬がなんとなくつぶやく。
その格好はいつも通り、全裸と大差ない透けたベビードールだ。
リーダーは予告なしで帰宅するので、彼女は半端に服は着ず、いつもこの格好をしている。

同じく豆を処理していた家政婦が、鼻を鳴らして言った。
「はん、そんな訳ないだろ。自分が見えてないねえ」
「そうですか?」
「あれは本当に忙しいのさ。子供の売り買いの商売をしてた連中が何度も手入れを受けて、旦那様のとことも揉めて、騒ぎがなかなか収まらないようだよ?」
「こどもの売り買いですか」
「なんせこの業界・・・って言うのかねえ? ちょっとした行き違いで死人も出るんで、騒ぎが大きくなりやすいのさ」

両親が兄を買った所の話だろうか。兄が死んだ事で決着が付いたと思っていたが、そこまで単純でもないらしい。

「旦那様はね、本当はアンタを一日中構い倒したいのさ。実際、前に帰った時はそうだったろ? この家に居る間中、ひと時も自由にさせてもらえなかったじゃないか」
「・・・はい」
その時は半日もベッドに引きずり込まれ、彼は痛がる三瀬を執拗に犯し続けた。それ以外でもずっと視界内から逃げられず、トイレすら目の前でさせられた。

「帰れないから余計ああなっちまうんだろうねえ。今回も不在が長いから、帰ったときは覚悟しときな」
「ううっ・・・」
三瀬はうつむく。性行為はまだ痛いとはいえ、全体としてはぞんざいに扱われている訳ではないのは彼女にも判る。
大人しく従っている限りは、この状況で殺される事はなさそうだ。だから妥協すべきだろう。
こんな状況になっても、彼女は生きていたかった。
そして最近は、生きていたい別の理由もできてしまった。

そんな会話から更に2週間以上経ったある日、リーダーが唐突に帰宅する。
三瀬がこの家に連れてこられてから、既に5カ月が経過していた。

「なんだこれは」
リーダーが、三瀬を見て目を丸くし、すぐ横に立つ家政婦が彼に聞き返す。
「なんだ、と申しますと?」
「腹だよ。どういうことだ」

透け透けのベビードールからは、全裸と大差なく体が見えている。
そこにあるのは三瀬の子供体形だったが、そのお腹がやけにぽっこりと膨らんでいた。
腹筋が弱い子供はお腹が膨らむ傾向があり、通称イカ腹とか呼ばれる。
だがその膨らみ方は、あきらかにそういう範疇を超えていた。

「わたくし思いますに、まるで妊娠しているようでございますね」
「だからどういうことだよ! なんで妊娠なんかするんだよ!」
「旦那様の種を毎回たっぷり植え付けて頂いたからでは?」
「だから! こんなガキが孕むとは思わねえだろ!?」

怒号にびくびく怯える三瀬の前で、リーダーは家政婦を睨み、命じる。
「明日にでもカザミの所に連れて行け。堕ろさせる」
「ひっ」
三瀬が小さく悲鳴を上げ、リーダーは彼女に視線を移す。
「なんだ?」
「お、おろ・・・す?」
「当たり前だろ。産ませる訳にいくか」
「あ・・・あ・・・いや・・・」

今にも泣き出しそうな三瀬を無視し、彼は家政婦に言った。
「いったんそいつは閉じ込めとけ。それよりメシだ」
「かしこまりました」
「食事の後で連れて来い。下が駄目でも口は使えるだろ」
「はい、そのように」

リーダーの食事が済むと、三瀬が連れてこられる。
堕胎を命じた時の狼狽振りから、自分への奉仕に抵抗するかとリーダーは思ったが、特にそういう事はなかった。
少女は、これまでもこの家でしていたように、椅子に座ったままのリーダーのペニスを銜える。
自分への奉仕を受けながら、さっきのあれはどういう事だろうと、彼は考え込んだ。

三瀬は自分の妊娠を自覚していた。そして堕胎に拒否反応を示した。
産みたがっている? まさか彼の子供を産みたいと思った?
それはない、とすぐに否定する。自分が好かれていると思うほど、彼は自惚れていない。
この少女は生殺与奪を握られているから、ここ以外で生きていく術がないから、素直に従っているだけだ。

産みたいかどうかではなく、体に手を加えられるのを嫌がっている可能性の方が高い。
以前の暮らしで耳にしたのか、さまざまな暴力行為について知識だけはあるようだ。
強制的に子供を堕させる事を、死刑宣告でも受けたように思ったのかもしれない。

精液を飲ませた後、三瀬をベッドに連れ込む。
改めて見るとやはりお腹が目立ち、つい触ってみたくなる。
良く考えると別に遠慮する理由もなかった。服をめくり上げ、じかに触ってみる。
三瀬は触れられた瞬間だけはびくっと震えたが、あとはされるがままだ。
そのお腹は妙に手触りがいい。いや、もともと三瀬の体は手触りが良かった。
さて、この中に自分の子が入っているのだろうか。
だが、あの時に孕んだのなら、手下の子の可能性もある。全員がたっぷり注いだのだ。

思わず手に力が入りそうになるのを、危うくこらえた。
あっさり握りつぶせてしまいそうだが、そんな事をすれば大惨事だ。
別に三瀬を殺したい訳ではない。むしろまだ当分、この娘を構っていたいのだ。
だがそれには、この腹は邪魔だった。

三瀬を四つんばいにさせると、膝立ちで後ろから挿入する。
お腹に子供がいるからと拒否するかと思ったが、これにも特に抵抗はせず、いつも通りに従順だった。
そして、いつも通りの小さな膣、小さな体で、同じように痛がって泣く。
何も変わらないように思え、意味もなく安堵する。
背後から犯すと、相手が子供を宿しているとは信じられなかった。

一度射精した後、抜かずに胸元に抱え上げる。
この体位になると、お腹のぽっこり具合が際立ち、やはり妊娠しているのだと思い知らされる。
手を伸ばし、またお腹を撫でる。
このままぎゅっと押さえたらどうなるのだろうと夢想する。
無論、単に三瀬が死ぬだけだ。出来物ではないのだから中身だけが出はしない。

そこに入っているのが、確実に自分の子なら、あるいは一考の余地はあったかもしれない。
だが、確定でないなら駄目だ。
いつも通り、挿入が痛くてぐずついている三瀬のお腹を撫でながら、その耳元で話しかけてみる。
「子供を堕ろすだけだ。別にお前を殺そうってんじゃないぞ?」
「いやっ・・・いやっ・・・あかちゃん、だめ、とらないで・・・」
予想に反し、その言葉に三瀬が強く抵抗する。
思わずリーダーも強い口調になった。
「駄目だ。俺はそんな子はいらん。産ませんぞ。絶対堕ろさせる」
「いや、いや、だめ、だめっ」

行為が終わっても泣き通しの三瀬を放置し、彼はシャワーで体を洗うと、泊り込まずにまたすぐに家を出る。
せっかく時間を作って少女を抱きに戻ったのに、そして目的は達成したのに、少し後味が悪い。

更に翌日。思ったより上手く仕事が片付き、リーダーは夕方に帰宅した。
遺伝子検査をすれば自分の子かどうか判るのではと思ったので、試しにその話を進めてみようと考えていた。
いつも通り家政婦が部屋を掃除しているが、三瀬が見当たらない。いるはずの部屋にも居ない。

ああ、堕ろしたのかと思った。昨日命じておいたので、それは意外ではない。
堕胎は回復に時間が掛かる。大抵は日帰りはできないから、入院しているのだろう。
少し早まったかと、ちらりと思った。
もし自分の子だったら堕ろさなくても良かったからだ。

だが今産ませるべきではないと思い直す。まだ子供を持つつもりはなかった。堕ろすのは妥当な判断だ。
そう自分に言い聞かせつつ、家政婦に聞いてみる。
「明日には帰るのか?」
「はい? 何がですか?」
「ミツセだ。堕ろしたんだろう?」
「いいえ?」
「・・・はあ?」

怪訝そうに聞き返す男に、家政婦が説明する。
「もう育ちすぎていて、堕胎は危険だと断わられました。したいならよそを当たってくれと」
「育ちすぎだと?」
「妊娠7ヶ月だそうです」
「・・・え、な、7ヶ月!?」
「妊娠何ヶ月と言う数え方は特殊で、受精して7ヶ月経っているわけではありません。生理がこないので調べて妊娠が判明したら、その時点で妊娠2ヶ月になります」

リーダーは息を吐く。
「な、なんだ。判りにくいな。それなら計算は合うが・・・もう堕ろせないだと?」
「ここまで育ったら普通は産む方向で考えるそうです。どうしても堕ろす場合、子宮内でバラバラにして引きずり出すので、危険度が跳ね上がります」
「だからって、はいそうですかと産ませられるか。その特殊な手段を引き受ける医者を探しておけ」
「かしこまりました」
「それでミツセはどこだ」
「いつも通りに部屋に戻りましたので、私もいつもの仕事に戻りました」
「いないぞ?」
「トイレか何かでは?」
「・・・そうか?」

それから彼は、地下も含めて家中を探したが、三瀬はやはり見当たらない。
さほど大きくない家だ、隠れる場所などそうそうない。家には居ないとしか思えない。

リーダーは唇を噛み、考え込む。
ひょっとしたら、堕胎が嫌で逃げたのか? そんなに産みたかったのか?
他の理由を考えられない以上、それが有力な候補だ。
だいたい、あそこまで自分に逆らった事など、この家に連れてきてから初めてだった。
その事実をもっと真剣に考えるべきだったか。

反抗する気配も逃げ出す気配もなかったので、最近はまったくそれを警戒していなかった。
もっとも今更、三瀬が警察に駆け込むとは思えない。
警察さえ関わらなければ、このまま逃げられてもたいした問題ではない。
だが、三瀬から関わろうとしなくても事件が起きれば結局警察が介入する可能性は高い。
それに、逃げられていいなどと、あっさり割り切れなどしない。

「くそぉ、この忙しい時に! 忌々しい!」
この件には無関係な人間をあまり巻き込めない。三瀬を探すには、久しぶりに手下を使うしかない。
そうなったらあの手下達に、見つけ出した三瀬を抱かせざるを得なくなる。

手下が器具を使う事を好むために、三瀬の体を傷つけそうに思えて、そして自分以外の男にあの少女を抱かせるのが段々と悔しくなってきてしまい、彼らを遠ざけていたのに。
その影響で、自分の仕事を手下に分担させられず、忙しくなって帰宅し損ねる羽目になったが。
まさかこんな事が起きるとは。

いや、大丈夫だ。良く考えれば三瀬を抱かせる必要はない。
成長が足りず色気もなく、挙句の果てにボテ腹になった娘など何の価値もない。誰も抱きたがりなどしない。
手下は、きっと今の三瀬に見向きもしないだろう。彼らには適当に風俗あたりから相手を見繕えばいい。
そうだ、わざわざ彼らに三瀬を与える必要などない。今さら他人になどやるつもりはない。

問題はむしろ捕まえた後だ。どう罰すればいいのだろう。
堕胎の執行を罰にしてもいいが、冷静に考えると、説明された堕し方は剣呑すぎる。
家政婦から聞く限りは、大人でも事故が起きるらしい。
ましてあんな小さな子供の、あのぽっこり突き出たお腹の中に膣から器具を突っ込み、子宮の中を切り刻んでしまうのだ。
無茶だ。そんな事をすれば三瀬が死んでしまう。

こうなると業腹だが、もはや産ませるしかないではないか。
「畜生、どうしてくれよう・・・そうか、産ませておいて子供を奪えば罰になるな。それでいくか」
よく判らない感情に駆られてリーダーはつぶやく。
自分の子ならいいが、もし違ったら絶対に手元に残さない事にする。それしかない。
だったら迂闊に検査などできない。自分の子ではないと判った上で、あのお腹を放置できる自信がない。

三瀬は絶対見つかると彼は確信していた。その根拠はないにも関わらずだ。
あの少女にもう手が届かないと、もう二度と触れられないと、考えたくなかった。
彼は、自分の感情を認めたくなかった。


ごとごとと走る鈍行列車の座席に、白髪混じりの小柄な老婆が座っている。
杖を持ち、うつむき加減で、顔は良く見えない。
良く見えては困るのだ。顔のしわは描いたもので、あまり近距離から見られるとばれる。
杖を突くのは顔を上げないためだ。それに今は身重なので、ゆっくり歩くのはむしろ都合がいい。

妊娠を自覚した時から、ひょっとしたら逃げる羽目になるかもと言う予感があった。
だから少しずつ準備はしていた。お金も多少は持っている。
だけどあの男に決定的に拒否された時はショックだった。
妊娠してしまった自分にも、お腹の子にも、価値がないと断言された。
あの、兄だった少年の言った事とまったく逆だ。


屋敷の離れに住んでいた頃、兄がこっそりと部屋に忍び込んできた。
布団にいた三瀬をうつぶせにしてパジャマのズボンをぱんつごと下させると、上から覆いかぶさってくる。
「三瀬には、もう生理があるんだよね」
「や、おにいちゃん、やめて、あっ」
「だいじょうぶ、すぐ済むから」
「やん、や、いたい、やっ」

すぐ済むといいつつ、兄は20分ほどその行為を続けた。
それが終わると三瀬に覆いかぶさったまま、息を切らせ、こう言う。
「いつか・・・ぼくの子供がさ、おなかにいるって言うんだ・・・それで、大事にしてもらえるから・・・」
「こども・・・?」
「うん。いまじゃないけど・・・いつか、そうなるよ」

その行為はそれ以後も一ヶ月に一度ずつ、合計4回続いた。
そして襲った数日後に、おしっこを入れて来いとコップを渡される。
その訳の判らない命令にも彼女は従っていたが、4回目の行為の後、そして4回目に尿を渡した翌日。
朝方に、わざわざ離れにやってきた兄は、三瀬を抱きしめこう言った。
「やったぞ」
何がやったなのかの説明はなく、ただ彼は喜び、そして三瀬に少し済まなさそうな、そして羨ましそうな視線を向けただけだった。

両親に兄の性処理をしてもらうと言われたのは、兄がそういった行為を始めた後だった。
既にされている等と、余計な事を彼女は言わなかった。それにあれは、処理と言うのとは違う気がしたのだ。
いずれにしても、兄と会話らしい事をしたのは、抱きしめられた朝が最後となった。
間もなく騒ぎが起きて、その結果、彼女は拉致され性奴隷になり、兄は死んだのだから。

今日の午前に彼女を診察した風変わりな医者は、彼女が妊娠26から28週であり、もはや無難な堕胎はできないと言った。
たぶん28週なのだろう。兄が最後に三瀬に射精したのがそのくらいだからだ。
リーダーは三瀬を処女だと思い込んでいた様だが、彼女からは何も言っていないから、嘘はついていない。
兄に挿入されはしたが、おちんちんが小さすぎて、三瀬が出血しなかっただけだ。

2時間ほど前にあの家を出るとき、家政婦は言った。
「あたしゃ自分の身が可愛いからね。逃げるのは手伝えないよ」
「はい。でもこれまで色々みのがしてくれて、ありがとうございます」
「恩に思うなら、もし掴まってもあたしが味方したなんて欠片も言うんじゃないよ? 漏らしたら祟るからね?」
「はい、ぜったいに言いません」
「それと、絶対に警察にも捕まるんじゃないよ? こっちも色々都合が悪いんだからね?」
「は、はい、気をつけます・・・」

家政婦が用意してくれた逃走用のかつらや衣装を手に、三瀬は頭を下げた。
逃走資金をへそくりしたり、非常食を溜め込んだりを、この家政婦は見て見ぬ振りでしてくれたのだ。
妊娠に早くから気づいたのに、あの男には最後まで言わないでおいてもくれた。
それで充分だった。これ以上この人に迷惑を掛けられない。

揺れる列車の中で、三瀬はそっと自分の膨らんだお腹をなでる。
これからどうなるかは、まったく判らない。
自活した事もない子供の三瀬だ。この子が生まれるまで、生きていられるだろうか。
食べるに事欠き、衰弱して死んでしまうかもしれない。
誰かに利用され、ボロボロになって死ぬのかもしれない。
むしろ誰にも知られず、ひっそりと山奥で野垂れ死にするのかもしれない。

妊娠した三瀬には価値がないと言い切ったあの男は、その子供の親が兄だと知ったら手のひらを返したのだろうか。
そうかもしれない。生き延びる事だけを考えたなら、それが正解だったのかもしれない。
でも、もうあそこには居たくない。
この赤ちゃんを、そんな駆け引きに使いたくない。
これは自分と、あの幸せになり損ねた少年との赤ちゃん。それだけでいい。

「お母さんと、いっしょに、いこうね・・・」
お腹をなでながら、三瀬はそうつぶやく。
その声に応える様に、お腹の赤ちゃんが少し、動いた気がした。

<おわり>
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(おまけ)

あの家から出る間際に、家政婦が玄関先で唐突に言った。
「気が向いたらここに行きな」
「?」
「教えてもらったなんて言うんじゃないよ。そしてあたしの名は絶対出さないでおくれ。いいね?」
「・・・はい」

渡された紙切れには住所が書かれていた。
かなり遠い。列車で何時間も掛かる。
けれど、行く当てなどない三瀬は、その住所の場所に向かっていた。

最後の電車を降りた時は、既に周囲は真っ暗だった。
悠里は駅の便所で、老婆の仮装を解く。もし誰かと会うなら仮装は逆効果だ。
それから住所を頼りに歩いていく。
住宅街のようだが、建物の密度がかなり低く、畑が目立つ。
おかげであまり迷わずに目的地についた。

それは飲食店だった、ボロくはあるが廃屋ではない。むしろ使い込まれた雰囲気のある建物だった。
従業員募集中、の張り紙があった。あきれた事に何も条件が書いてない。
時給も、勤務時間も、年齢制限すらも。
三瀬は意を決し、中に入ってみる。

「今日はもう終わったぞ・・・ん、どした」
熊みたいにごつくて剛毛を生やした男が三瀬を見る。
確かに後片付け中のようだ。他にも2人くらいが奥に食器を運んでいるのが見える。
「・・・じゅうぎょういん、ぼしゅうちゅう、って書いてありました」
「んん? 仕事が欲しいのか?」
「はい」

教えてもらったとも言えず、家政婦の名前も出せなくて、なおかつ店が閉店中なら、理由としてその位しか思いつかない。、
それに、何らかの収入を得られないと、すぐに詰む。所持金は雀の涙なのだ。
覚悟をしたからと言って、積極的に死にたい訳ではない。お金を稼ぐ方法は必要だ。
ただ、ここで雇ってくれなどと言うのは無理筋にも程がある。その程度は三瀬だって判っている。

「でも・・・ああ、なんだ訳ありか。・・・なんだ、訳ありか。ふーん?」
熊みたいな男は、三瀬のお腹の辺りを眺めると、2回同じ事をつぶやく。何か一人で納得していた。
今はかなりゆるい服を着ているので、お腹の膨らみはそんなに目立たないはずなのだが。

「そうか。なるほど。久しぶりだな」
「あの・・・?」
「でもってお前さん、住み込み希望か?」
「は、はい」
「それなら食事もいるな? 3食こみで月10万。あとは働きっぷりで上方修正してやる。どうだ?」
「え、あ」
「布団くらいはサービスしてやる。どうだ、働くか?」
「お、お、おねがい、しましゅ」
いかにも怪しさ大爆発な三瀬を、しかもどう見ても未成年の少女を、たったそれだけの問答で雇う事にした熊男に、思わず返答を噛んでしまった。

「よしそれじゃ・・・おい、川村! 2階の・・・いや階段がない方がいいな・・・1階の俺のプラモ部屋を開けるから後で手伝え」
奥で片づけをしていたうちの一人、若い男がこちらに向かってくる。
「はあ? いいですけど・・・え、この子雇うんで?」
「手ぇ出すなよ」
「あのね。いくら僕でも小学生に手は・・・待ってください店長、小学生雇うのは何ぼなんでもまずいんでは」
「俺の娘ってことにしとけばいいだろ。家業の手伝いだ」
「店長、累計で何人娘がいる事になってんですか」
「20人ぐらい?」
「真顔で答えないで下さい。えーと・・・名前なんての?」

問いが唐突に自分に飛んできた三瀬は、戸惑いながらもはっきり答えた。
「間宮 三瀬です。よろしくおねがいします」
「了解、みつせね。じゃあ三瀬ちゃん、今日からよろしく」
「おい川村、今のうちに言っとくが、この子はあと2、3ヶ月で産休がいるからな。その前提でローテ組んどけよ」
熊男が口を挟む。
「え、何がサンキュー・・・産休!? 産休ですか!?」
「さすがに産む前後は休ませにゃいかんだろが」
「いえ、そうじゃなくて、つまりこの子、この歳で妊娠・・・確かにお腹大きいじゃん! 気づけよ俺!」
突然叫んだ若い男に、むしろ何で気づくんだろうと三瀬が首をひねる。

若い男は唐突にあきらめたように言った。
「・・・いやもう、いいです。ここに居たら非常識ってなんだっけってなりますから」
「いやいやいや、さすがに俺も一桁の出産なんて立会った経験はないがな?」
「立ち会う気ですか! 専門家連れてきなさいよ。でも今はそれは置いといて。三瀬ちゃん?」
「は、はい」
「君の部屋を作るのは後になるから、いったん居間に上がってよ。疲れてるみたいだし、赤ちゃんに障ったらまずいから休んでて」
「で、でも、なにか、あの、めいわくをかけてしまうんでは・・・」
「うちではこの程度平常営業だから気にしないで。このおっさん非常識の塊だし」
「誰が非常識だ! うん、俺だな。確かに」
「認めるんですかっ!」
三瀬の事などごく軽い出来事だとばかりに、ぽんぽん交わされる言葉の応酬に、三瀬は何故か安らぐものを感じる。
自分は多分、ここに居ていいのだろうと。

<おまけパートをあまり膨らませるとえらい事になるのでやりませんというか前科ありなので終わる>
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教授「ん、私を呼んだか?」
いえ呼んでません。