『今日は、わんこ。』

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俺が今住んでいるのは、最新とまでいかないが、まあまあ新しい高層マンションだ。
それなりに広い部屋で、設備も上等なほうだろう。
そして俺は技術職、それも希少な奴で、どんな時でも仕事は引く手あまた。手に職って奴だな。
少し前に美人の彼女もできた。どこにも悪い要因は無い。
無いってのに、部屋が妙に陰鬱な空気に支配されてる。

諸悪の根源は、居間の隅っこ、バスルームの扉近くでクッションにうずくまってる、あいつだ。
もう一ヶ月も経つってのに。
そりゃ、引き取った当初は仕方ないかとも思ったさ。
でも、いつまで陰々滅々してやがる。こっちまで気分悪くなってくるぞ。

俺はつかつかと、そいつの元に歩み寄った。
そいつは例によって写真立てを抱え込んで、何となく湿気たツラをしてる。
近づいたこっちの気配に反応し、顔を上げて俺を見た。
「いい加減にしろ。もういいだろ」
写真立てをそいつの懐からむしり取る。

「きゃうんっ!」
そいつが悲鳴を上げ、俺に手を伸ばし、返してくれと主張する。
力づくで取り返すそうとしないのは、最低限のしつけはされてるからだ。
「きゃう、きゃうん、きゃうう」
「お前がそんなだと、こっちまで鬱陶しいんだよ」
「きゅうう・・・」
悲しそうに耳を伏せ、それでも手は伸ばしたまま。

そいつは育ちかけの人間の子供くらいの大きさで、遠目には人間にも見える。
服だってちゃんと着てるぞ。ワンピース一枚だが。
だけど、頭に毛でふさふさの耳が生えてて、ここからは見えないが尻尾もある。
こいつは俗に言う獣人って奴で、俺のペットだ。
そうでなきゃ首輪を嵌めて、鎖で壁に繋げておくなんて、ただの児童虐待だろ。

「あう、あうん・・・」
そいつは切ない声で、返してと訴える。
この写真立てはメンテのいらない物理式だ。
平たく言えば、プリントアウトされた写真が枠の中に挟まってるだけの、原始的な代物。
そして写真に写ってるのは、こいつと、それにこいつの元飼い主、一月半前に死んだ友人だ。

その友人、フレッドは俺と同じ星間操舵技術師、ものすごく下世話に言えば宇宙船のパイロットだ。
つっても地球近辺をのこのこ飛んでる、はしけみたいなのを想像されても困る。
別の恒星系まで往復したり、植民船みたいなバカでかいのを操ったりする様な、桁の違う高度な仕事を任されるんだ。
同じ真似をできる奴がほいほい居る訳じゃない。手に職と言ったの、納得したろ?

フレッドとは時々同じ宇宙船に乗り合わせた。
他の乗員で代替できない仕事だから、普通なら交代要員も入れて2名以上集められる。そして数が少ないからよく仕事が被るんだ。
まあ友達になったのも、よく顔を合わせるからなんだがね。
あいつは俺より若くて経験が浅いのに、光るセンスを持ってた奴だ。
どう扱うか悩むようなクソややこしい空間を、見事に一発で抜けてみせた時は驚いたぜ。

宇宙がらみの仕事は、死亡率が高いと思われてるし、実際それは否定しない。
ましてや俺たちみたいな特殊技能持ちのパイロットは、定期航路みたいなどっしり安全な場所じゃなく、開拓中の場所でする仕事も多い。その分報酬はいいんだが。
だから一般人より死に面する可能性は高い。生命保険の加入を断られる事も多々ある。

危険度が高いから、一応救済手段も用意はされてる。
普通なら高すぎてそうそう使えない再生槽が、俺たちの場合は相対的に安く使える。
宇宙事業共済組合が掛け金を払ってるし、対象者には使用補助金を出してくれる。
それでも相当の金が取られるから、普通に治療できるような怪我で使う奴はいないがな。

それに再生槽は治療というより、大規模な損傷を受けた組織を再生させるのが目的の装置だ。
例えば病気には使えない。再生しても解決しないからな。

そしてそもそも、再生槽まで連れて来る前に死んでては、どうしようもない。
皮肉なことに、フレッドが死んだのは宇宙じゃなかった。
出発前の空港の待合室で、火事に巻き込まれ、しかも機材の不備で隔壁に閉じ込められちまったんだ。
もろに人災だな。そして焼死じゃ、再生もへったくれも無い。

フレッドの、非常時用代理人リストには俺の名前が入っていた。
別におかしくはない。俺もあいつを自分の代理人リストに入れてた。
だから、あいつが死んだ後の事後処理は俺が全部やった。
契約してた仕事先に事情を伝え、違約金やら支払いが必要な所へは金も送った。

火事を起こした空港からの補償金を受け取ったのは俺だ。
身内が来たらそっちが受け取るはずだったが、誰も来なかったからな。まあ来てたら事後処理はそいつにさせるつもりだったが。
でも空港に、補償金を1人分浮かさせてやる義理もない。
あいつの借金だって放棄せずに丸ごと引き受けたんだ。俺が受け取っても別におかしかないだろ?

補償金は結構な額面があり、しばらくなら仕事をしないでも暮らせそうなほどだった。
でも俺は特に自分の生活は変えず、普通に仕事を続けてる。
一生豪遊できる様な金額じゃないし、あぶく銭に浮かれると後が怖いと、昔、祖父も言ってたしな。

あいつの個人資産、車とか家財道具も俺が処理したんだが、ちょっと面倒だったのが、目の前にいるこいつだ。
要するにペットなんだが、あいつが時々話題に出してたんで存在は知ってた。
名前も知ってたよ。エミルっていうんだ。
面倒なことに、フレッドはエミルをかなり可愛がってたみたいなんだよ。
そんなのを、適当に放り出す訳にはいかんし、かといって殺処分もできんよな?
仕方ないので、とりあえず引き取って、ここに置いている。

幸いトイレのしつけだのエサだの、基本的な事を考慮しなくて済むのは助かった。
何でかというと、こいつにはそういう事をかなりの所まで、自分でできる知能があるからだ。
そして実際、自分でできるように手配もした。
こいつの首輪に繋がってる鎖は、バスルームの扉のすぐ横に留めてある。
鎖は結構長いので、こいつは自分でバスルームに入って、そこのトイレを使える。洗面所には水もある。
エサも、犬猫みたいな容器は特にいらない。手で持って食えるタイプを与えているからだ。そして予備は洗面所の棚に箱ごと入れてある。
だから少なくとも生存的な意味では、こいつは手が掛からない。
普通の犬だの猫だのを唐突に飼う羽目になってたら、この辺は結構困ってたろうな。

「きゅうう・・・」
エミルが涙目で、俺をじっと見上げる。
その顔は、獣耳を無視したら人間とあまり変わらん。
顔にはなんとなく、あれ、人間じゃないのかな、という雰囲気がありはするが。
人間と同じ位置に、人間と同じ耳まで付いてるんだ。じゃあ頭のって何なんだろうな。

正直に言うと結構可愛い。
ちょっと幼すぎるが、元々こいつらはあまりでかくならないから、見た目より実年齢は上なんだろう。
だけど、どのみち俺の趣味じゃない。
可愛い娘に見える物をペットにしたがる奴の気持ちなんて判らん、などとカマトトぶる気はない。
でも、こんなに人間っぽいのなら、じゃあ別に人間の女でいいだろ?
ペットとして、わざわざ人間もどきを飼う必要なんかない。違うか?

「きゅー・・・くぅん・・・」
とはいうものの、可愛い娘に見える相手が、悲壮な顔して涙目で哀願してくるんだ。
俺もさすがに神経が鋼鉄で出来てる訳じゃない。仕方なく写真立てを放って返してやる。
「きゃふっ」
エミルは大慌てでそれを受け取ると、大事そうに抱え込んだ。
俺はくるっと振り返ると、その場を後にする。
やれやれ。
まあフレッドも、ここまで好かれてたのなら、本望だろうさ。

さて一か月も経ってる割に、俺にあまり打ち解けてなさそうなのには、こっちも若干責任はある。
仕事柄、留守が多いんだ。こいつを引き取ってからだって、半分も家に居なかった。
でもそれは、死んだフレッドもそうだったからな。仕方ねえだろ?

チリリン・・・
チャイムが鳴った。おお、待ちわびた客だ。
俺はいそいそと玄関に向かった。

 * * *

「ああ、そういう事情だったの・・・」
ベッドの上で、サリイが俺の裸の胸板を突付きながら頷いた。もちろん彼女も裸だ。
彼女がやって来た時、エミルを見つけるとまず、なにこれ? とか言われた。
まあまあ、となだめて寝室に迎え入れ、すべき事を一通り済ませてから、また、居間のあれはどういう事? って聞かれたんだ。
一ヶ月続いた禁欲生活が解消され、今は賢者タイムに入ってた俺は、彼女の髪を撫でてやりながら、おおまかな経緯を説明してやった。
たかだか仕事で知り合った友人に、財産の処分を任せてしまう感覚は彼女には理解し難いものらしいが、普通に星の上だけで暮らしてる奴は皆、そんなもんだろ。
だから特に理解してもらおうとはせず、ただそういう物なんだと納得してもらう。

「まだフレッドの写真抱えて、めそめそしてやがんだぜ。こっちまで滅入っちまう」
「一ヶ月も飼ったのなら、もう義理は果たしたでしょ? そろそろ、そこらのペットショップに引き取って貰ったら?」
そういう真似を抵抗なくできるんだったら苦労はない。
最初からあいつのペットなんて引き取らず、それこそ適当に処分したさ。
だが判らないのは仕方がない。俺は彼女向きに、もっと一般向きの理由を言った。

「そこらの店じゃ、持ち込んでも引き取ってくれんだろな。ああいうの売ってる店は少ない。お前見たことあるか?」
「ううん。飼ってる人は何人か知ってるけど、売ってる所って見ないわね。あら、だとすると」
「だとすると、何だ?」
「あなたのお友達のフレッドって人、ひょっとしてお金持ちだったの? だってあたしの知ってる獣人飼ってる人って、みんなそうよ」
「たまたまだろ。あいつは金持ちじゃなかった」

とはいえ平均よりは裕福だったはずだ。獣人を手に入れるには経済力もある程度はいる。
獣人は数が少なく、それなりに高価だ。
ただ、飼いたがる側の数が、普通のペットに比べると少ないから、そこまでは高騰せん。
だってなあ、半端に知能がある生き物は、飼うには便利な反面、鬱陶しくもある。
それに、人間に似た形状のものをペットにするのは、昔からややマイナーだと思うぜ。猿とかね。
俺だって友人の飼ってるのを引き取る、なんて状況にならなきゃ、一生飼わなかったと思う。
言ったろ、人間もどきなんて趣味じゃないんだ。

「そうなの? じゃあ・・・女性の代わりだったのかしら」
「は?」
「あれが代用品になるの、知らない訳じゃないでしょ?」

彼女の言ってるのは、要するに獣人を本物の女の代用にするって話だ。
それが可能なのは知ってるさ。人間とそっくり同じ構造だから、何の支障もないらしい。
金持ちなら観賞用と割り切って、何もしない事もあるらしいが、普通は獣人を飼ってる場合、それが目的ってのは多いかもしれん。
彼女の発言はその辺も念頭にあるんだろう。

「知っちゃいるが・・・」

フレッドがエミルを女として抱いている光景、ってのをこの時まで全然思い浮かべた事がなかったので、意表を突かれた気がした。
あいつがエミルの話をする時は、実に無邪気に、こんな事をしたとか、こんな事があったとか、そんなのばっかりだった。
性的な雰囲気を感じず、単に可愛がってるって印象しかなかった。

とは言え、ありえんって断言できるほどじゃない。
エミルの今の恰好は、裸の上にワンピースを一枚着てるだけだが、これは別に俺の趣味じゃなくて、元々だ。
まあ、ペットに厚着させる奴もあまりおらんと思うから、それはいい。
でもフレッドの家で、エミルは考えようによっちゃかなり扇情的な恰好をずっとしてた訳だ。

俺はフレッドの人間性を奥底まで知ってた訳じゃない。
案外、家では性的に奔放で、エミルをそういう目的の玩具にしてたのかもしれん。
そして自分の性生活を、聞かれもしないのに他人に報告する奴は、あまりいないしな。

「やっぱり処分しちゃったら?」
「なんで」
「だってその友達が使ってたのなら・・・ちょっと・・・ね?」
「まあ、言う意味は判るが」
「それとも・・・まさか、あんなのに興味があるの?」
「・・・いや、考えてなかったな」
実際そうだ。サリイに言われるまでその可能性を思いついてなかった。
「ほんとに?」
「当たり前だろ。こんなに魅力的な女がいるのに、なんでまがい物に手を出そうなんて考えるんだ?」
そう言って俺はサリィの上に覆いかぶさる。そろそろ賢者タイムは終了、次のラウンド開始だぜ。
「あんっ・・・」
豊かな乳房を揉み上げられ、サリィが軽く喘いだ。


サリィを見送った後、居間に戻った時、なんとなくエミルを見た。
クッションにうずくまって眠っているが、例によって写真立てを腕の中に抱え込んでる。
あれは、フレッドの家を処分するために、家財一式を撤去してたら、焦ったエミルが机の上から持ってきたものだ。
まあ、それぐらいならいいだろうと考え、その時は放置した。
家財の撤去は避けられなかった。
あれがフレッドの持ち家だったらあるいは家自体は残したかもしれなかった。人に貸すとかできるから。
でも、賃貸だったからな。
そしてあいつの家財を俺が抱え込んでも意味ないんだ。
どうせ使わないから邪魔になるだけだし、その為に倉庫を借りるのは本末転倒だろ。

実はその時、エミルもついでに処分する事は充分可能だった。
誰からも文句は言われなかったろう。一番文句を言うはずのフレッドはもういない。
ただ、あいつが大事に飼ってた生き物くらい、引き継いでやるべきかなと思ったんだ。
正直ここまで鬱陶しいとは思わなかったが。大型の生物の存在感をなめてた。

いっそ普通の犬や猫なら、話が単純だったんだろうか。
いやいや、猫は知らないが犬は結構飼い主を覚えてるって言うな。同じくらい鬱陶しい事になってたかもしれん。
ああ、そう考えると、エミルも犬なのか。
この際、普通の犬と同じように扱ってやろうか。犬小屋でも作って、そこに入らせて。
・・・そう思ったのは、この時点では単なる冗談のつもりだった。

翌日の朝、俺は片手で持てるくらいの円盤状の物体を手に、寝ていたエミルの傍に行った。
ばうんっ!
結構大きな音を立て、円盤が広がる。エミルがびっくりして目を覚ました。
俺は、出来上がったテントを、エミルのクッションのすぐそばに置く。
これは、野宿が想定される状況で用意する、折り畳み式の簡易テントだ。
ごく小さく畳めるし、軽くて薄いが、広げるとご覧のとおり、大人一人くらいなら寝られる。
本来は室内で使うもんじゃないけどな。

テントの入り口に、エミルと書いたカードを貼り付ける。
エミルはまずテントを、次に俺を、ぽかんとした顔で見てた。
「お前の小屋だ」
俺は特に表情を出さずに言った。
もし表情が出てたら、皮肉っぽい笑い顔になってたのか、残酷で嗜虐的な笑みになってたのか。
どっちにしてもネガティブな感情が出てただろうと思う。
ま、こいつが拒否するのならそれでも構わんが、テントに篭ってくれれば陰気な様子を見ないですむからな。
俺はそのまま居間を立ち去った。エミルは最後までぽかんと俺を見てた。

結果から言うと、エミルはテントに篭りっぱなしにはならなかった。
フレッドの家では室内で放し飼いだったようだしな。
ただ、ちゃんと時々は入ってた。まるで使わない訳じゃなかった。
ちなみに、テント設置の翌日に来てくれたサリィには、なぜかそれがやたら好評だった。

「やっぱり犬よねえ。ああいうの似合うわ」
事後のベッドで、サリイが思い出したように笑う。
別に俺は、特に似合うとも何とも思わなかったが、機嫌のいい女性にわざわざ異論をぶつけて、その機嫌を損ねるもんじゃない、と祖父も昔、言ってたんでな。
何があったんだ、じーちゃん。

「だいたい、犬なら犬だけで暮らして犬同士でくっつけばいいのに、誰かしら、人間社会に混ぜようなんて思ったのは」
その言い分だとペットとか家畜とか、人間社会に共存してる動物全般の立場がなくなると思うが、まあいい。
ただし、最低限は指摘しておくか。
「あいにく、それはもう無理なんだ」
「何が無理なの?」
「犬同士って所だ。獣人の雄はもう絶滅してる」
「え・・・いつ?」
「200年くらい前かな」
「・・・じゃあ居間のあの犬、実は200歳なの? そうは見えないけど」
「んな訳あるか。今いる獣人は全部クローンなんだよ」
「ええ? じゃあ全部同じ・・・にも見えないけど」
「ただのクローンとはちょいと違うからな。減数分裂させて遺伝子交差を起こさせ、受精卵に仕立てて腹に入れてるから、遺伝的には姉妹くらいだ」

サリィが面食らった顔をした。途中がよく判らなかったらしい。
「・・・ええっと・・・何かややこしい事してるのね」
「単なるクローンだとあっさり滅びちまうそうでな。面倒な事してるってのは同感だ」
「素直に滅ぼしちゃえば良かったのに」
「生物学者あたりはそうもいかんのだろ。獣人を研究してる奴も居るし」
俺の知り合いの医者がそうだ。
本業とは別に獣人の生物学的な側面だの、歴史だの系譜だのをずっと調べてる。
フレッドも何度か話を聞きに行ったらしい。
「ずいぶんと、物好きな人がいるわね。あんなの研究して面白いの?」
「なあ、そんな事より・・・」
「あ・・・あふっ」
俺は彼女の下腹部に手を伸ばしていた。
そろそろ次のラウンドを始めたい気分だったし、いくら彼女が知らないからといっても、知り合いを嘲笑的に言われるのを聞きたかないからな。
だからこの話は終わりだ。


テントを置いて数日が経過した。
俺は居間で、新しい仕事のための荷造りをしている。
今回は少々長くなる可能性が高い。
まあ、エミルの食い物は十分用意してあるし、問題はなかろう。
そのエミルだが、テントのそばで、不安そうに俺を見ていた。
テントは、結局多少は使ってるようだし、サリィの受けも良かったので、そのまま置いてる。
で、何で不安そうなんだ? 別にこいつに危害を加えるそうな事はしてないぜ?
・・・そういやこれまでも、俺が仕事で出かける時は、何か不安そうにしてたっけ?
なんなんだよ。俺の身の安全でも心配してるのか? まさかな。

エミルを見ていて、一瞬あれ? と何か引っかかった。
何だろう、良く判らない。
まあいい、それより、そろそろサリィに連絡してみよう。
できれば今晩会えればいいけど、彼女も仕事で動きが取れない事がままあるからな。
まあ、またしばらく会えないから、食事にでも誘おうかと思っての事だ。
先日したばっかりだし、別にそこまでがっつく気はない。
・・・そして、無事連絡が付き、待合場所を決めて俺は家を出た。


その仕事だが、案の定と言うか、やはりきっちり長引いた。
内容は、新規開拓の航路のトラブル調査だった。
開業前に試験飛行した無人探査船が続けて消息不明になってたんだよ。
丁寧に調べたら、航路上に褐色矮星が1つ見つかり、探査機はその星の周辺で全部引っかかってた。
普通その位なら自力脱出してくるはずだが、矮星を周回してた、200年ほど前にどっかの軍が設置したジャミング装置が干渉しててね。
時々こういう罠があるんだ。ケースCとか分類されてる奴だな。
その装置を慎重に調査して、無事に無力化に成功した。
次の試験飛行はそれで無事成功し、ようやく仕事完了さ。

今回は無事だったが、罠と化した昔の機材類が、必ずしもこちらの手におえないケースもあるから油断がならない。
昔だからって技術レベルが低いとは限らないからだ。人類の技術は、全部が次世代に引き継がれてる訳じゃない。
生息域を広げ過ぎたのかね、管理がうまくいかなくなってる。
新しい技術が生まれる一方、既存の技術が詳細不明で再現できなくなったりとかが起きてるんだ。
特に、軍事系だと最後まで機密のまま、なんてのがあるからな。

エミルみたいな獣人も、昔の人類が作り出したって説があるくらいだ。
確かにああいう生き物がなんで人類に入り混じって存在するのか、いまいち判らん。
もちろんあくまで、説に過ぎんのだが。

それにしてもフレッドは優秀だったんだなと、改めて思い知る。
今回組んだ相手は、別に無能な訳じゃないけど、手際があまり良くないし、咄嗟の判断も遅い上に少々ずれてる。
見てて時々苛々した。フレッドだと全然そんな風に感じた事がなかったからな。
それとも、この程度のが世間の平均なのかね。いや、案外そうかもな。


3週間ぶりの帰宅。辺りはすっかり夜になっている。
長い留守だったが、エミルが部屋の中を荒らしている事はない筈だ。そのための首輪と鎖だからな。
部屋の扉を開け、廊下を抜けて居間に入る。
「あうんっ」
クッションの上に座り込んでたエミルが、俺を見てちょっと嬉しそうな顔で声を上げた。
俺を見て喜ぶとは、さすがにこの期間の孤独は堪えたか。
もちろん、周囲は特に散らかってない。食いこぼしも糞便もない。ちゃんと節度を保って生活してたようだ。
その辺は、フレッドに飼われてたからな。一応わきまえてるんだろう。

「わうー・・・」
エミルが、何となく構って欲しそうに見える。えらく軟化したもんだ。
孤独ってのはそこまで辛いのかね。
これが犬猫なら、じゃあもう一匹飼うかって話にもなるのかもしれんな。獣人はそうはいかんが。

ただ生憎、こっちにも都合があってな。
俺は早速サリィに連絡を取ってみる。
今回の仕事の相方が、よりによって女連れでな。
向こうはそのつもりはないのかもしれんが、散々当てられてかなりむしゃくしゃというか、うずうずしてるんだ。

「・・・あ、出張ですか」
サリィの勤め先から、彼女が出張中と聞かされた。
まあ確かにそんな事もあるだろう。そもそも出張に関してはこっちの方がはるかに常習犯だ。
しかしなあ、畜生。間が悪いぜ。

「ええい、くそ!」
通話を終えると、俺はスリッパを軽く蹴飛ばす。いや、彼女は悪くない。判ってるけどさ!
居間の向こうではエミルが座り込んだまま、また少し不安そうな顔でこっちを見ていた。
なんだよ、別にこれでお前に八つ当たりするほど、こっちの品性は腐っちゃいねえよ。
ええと、酒は残ってたかな?

居間のソファで、つまみもなしで、グラスで酒を煽る。
喉を焼くアルコールが、妙に久しぶりに感じる。
いや、実際に久しぶりか。
俺は仕事中は酒は飲まない。そして宇宙ではいつ不測の事態があるかわからん。
だから当番から外れても、基本は臨戦態勢で、構えは仕事中に準じている。つまり飲まない。

「はぁぁ・・・」
天井を仰ぐ。何かがいい感じで麻痺してきた。
少し気が晴れた・・・か?
いやいやどうだろう。憂さはこれで若干晴れたかもしれんが、欲求不満はまた別口だ。

どうすっかな。
サリィは2、3日いないらしいから、ずっと我慢するより別口で解消すべきだ。
風俗でも行くか? たまにはいいだろう。要はこのもやもやが消せればいいんだ。
それに、サリィと付き合う前は実際、どうにも溜まってきたらそうしてたんだ。
よし、行くか。
俺はソファから勢いよく立ち上がり、少しよろける。
思ったより回ってる様だ。ああ、腹に何も入れてなかったもんな。

「わう?」
エミルが相変わらず不安そうにこっちを見ている。俺はふっと思い出した。
ああ。わざわざ出かけなくても、いるじゃないか・・・手頃なのが。
さっきはこいつも構って欲しがってたんだ。丁度いいだろ。

ん? 今のこいつの飼い主は俺だぞ? 何の遠慮がいるんだ?
それに、こいつは俺がわざわざ引き取らなかったら、どうなってたか判ったもんじゃ無い。
ならいいだろ? 何か問題があるか? ないよな?

俺はエミルのそばまで歩いていく。ちょっと、いやかなり足取りが怪しい。
こっちを見上げる獣人の少女に向かって、言った。
「種付けしてやろうか?」
「・・・わふ?」
「寂しいんだろ? 子供ができたらにぎやかになるぜ?」
「あうん・・・」
「だから、種付けしてやろうか? 孕ませてやるよ、こっちに来な」
「・・・わう・・・」
エミルは俺の様子を伺ってる感じだ。
ちなみにいま言った内容がどのくらい理解できたのかは知らん。なんせ会話が成立しないからな。

バスルームの扉の横にある、鎖を固定していたフックに付いてたリングを操作した。
ロックがカチンと外れ、俺は鎖の端を持つ。
「来い」
鎖を引っ張ると、エミルは素直に立ち上がり、俺についてくる。だからそのまま寝室に連れ込んだ。

俺はエミルの前にしゃがみこみ、ワンピースの裾をめくり上げる。
「どれどれ」
「きゃうっ」
エミルが少し驚き、ちょっとだけ逃げるそぶりがある。すかさず尻を抱え込んで阻止した。
むにゅ、と柔らかい感触が掌に返る。結構、触り心地いいな。
エミルが着てるのはこのワンピースだけで、下着も付けていない。
人間の子供そっくりの下腹部が俺の目の前に丸出しになっている。
指で下から探ってみた。
「あうんっ・・・きゃうう・・・」
エミルが小さくもがく。
うん、十分使えそうだ。ちっと小さいが、まあ入るだろう。

「くぅん・・・」
エミルは怯えているのか、耳が寝ている。
俺は構わず、鎖を掴んだままベッドに上がり、横たわった。必然的にエミルもベッドの脇まで来る。
「どうした、上がれよ」
「きゃう・・・」
言われるまま、エミルもベッドに上がってくる。へえ、何だか言葉は通じてる感じだな。

俺はズボンの前を開けた。下着を絡ませながら俺のペニスが中から飛び出す。
この姿勢だとそそり立つより、腹にぴたっと貼りついちまうな。
「よーし、種付けしてやるから、そこに跨りな」
「・・・きゅう・・・」
エミルは俺の顔と、ペニスを交互に見てから、腰の上に膝立ちした。
一応何をすればいいのかは判ってるんだな。て事はフレッドでやっぱり開通済みか。

ちなみにさっきから、種付け種付けって言ってるが、エミルたち獣人は人間の男相手じゃ妊娠しない。
遺伝的には結構近いと聞いたが、実際に妊娠した例はない。
まあそうだろう。
世の中に獣人を飼って、こういう事をしてる、あるいはしてきた男たちがどれだけ居ると思う?
いちいち子供ができてたら、今頃は大騒ぎだ。
そもそも、それで子供ができるなら、手の込んだクローン技術を使う必要もないしな。

俺は鎖で首輪を引っ張りながら言った。
「見えるように、自分でめくれ」
「わう?」
「これだ」
ワンピースの裾を掴み、エミルの手に押し付ける。
「きゃう・・・」
戸惑いながら、エミルが裾を持った。
「もっと上げろ」
「・・・きゅう」
エミルが自分で裾を引っ張り上げ、下腹部が丸見えになる。

「よーし、腰を下ろせ」
「わう・・・」
おそるおそる、という按配でエミルが腰を下げる。
「そうだ、そこに・・・」
俺は自分のペニスを握り、先端をエミルの生殖器に押し当てる。なかなか新鮮な感触だ。
こんなちっこいのに入れた事ないからな。
当たったエミルの方は、びくっと震えて少し腰を引いた。
「こら、逃げるな」
「きゃうんっ」
怒鳴られ、また耳を伏せる。とりあえず逃げようとする動きは止まった。

「さあ、種付けしてやるぜ」
それで妊娠しないと知ってるはずなのに、俺は妙に本気で言った。
明らかに怯えているエミルに、俺は命令する。
「そのまま、力を抜いて腰を下げろ」
「きゅうぅ・・・」
それでもエミルは言われた通り、足から力を抜いた。
ぐりっ。
ペニスが獣人の娘の小さな性器に食い込む。
「きゃんっ」
反射的にエミルが上に逃げようとしたが、俺はその腰を掴むと、逆にぐいっと押し下げた。

めきめきめきっ!
「きゃいんっ!!」
エミルが思いっきり甲高い悲鳴を上げた。
ペニスの先端が完全にこいつの中に入り、そこを中から膨らませている。
粘膜が裂けて、血が出ていた。だが死にそうな出血じゃない。

「きゃう・・・あう・・・きゃううぅ・・・」
涙を流して痛がるエミルに構わず、俺は腰を突き上げた。
ぐちゅっ。
「きゃうっ!」
「自分からも、もっと下げろよ。子供が欲しかったら、もっと奥まで入れなきゃな」
「あうん・・・」
耳をぺたっと伏せたまま、涙目のエミルは命じられた通り、腰を下げようとする。なんだ結構忠実だな。
まだワンピースの裾を持ったままなのは、律儀なのか単に持ってるのを忘れてるのか。
めきっ。
「くきゅうっ・・・」
かなり痛いんだろう、身体が震えていた。そして実際血だらけの股間はかなり痛々しく見える。
体重を掛けようとしているが、その腰は引け気味だ。
だから俺は、もう一度エミルの腰に手を掛けると、思いっきりぐっと力を込める。

めぎゅみし、みきっ!
「ぎゃうっ!!!」
思いっきり奥まで貫かれ、エミルがのけ反って絶叫した。
血まみれの性器がはち切れそうなほど広がり、今にも裂けそうに見える。
「くっ・・・」
こっちの声は俺だ。中で思いっきり締め付けられ、背筋がぞくぞくする。
こんな感覚は初めてだ。柔らかいくせにきつく、きついのにどこか緩い所を感じる。
俺は下からエミルを突き上げた。
「きゅ・・・きゅうう・・・」
エミルのそこが、銜え込んでる俺のペニスを締め付け直す。
さすがに手が緩み、ワンピースを離してしまった。
俺が腰を動かすと、ゆっさゆっさとエミルの身体全体が揺さぶられ、それが一拍置いて俺への刺激として戻ってくる。

「きゃふ・・・きゃうう・・・」
泣いたままではあるが、多少慣れたのか、エミルの身体の震えは収まっていた。
だけど突き上げると、まだその都度、新鮮に反応する。
「きゃうんっ」
仰け反って悲鳴を上げ、軽くもがく。

俺は首輪に繋がった鎖をぐいっと引き寄せ、繋がったままのエミルの身体を抱える。
獣臭いかなと思ったが、別にそんな事はなかった。案外いい匂いだ。
俺は上機嫌で、ワンピースをめくり上げて、乳をまさぐった。
なくはない、程度の膨らみだ。サリィとは比較にならない。
でも感度はいいらしい。乳首をつままれると、びくんっと身体が跳ね、膣内が蠢いた。
そのまま乳首をこねくり回す。
「きゃううう・・・」
悲鳴じみた声だが、純粋に痛がってる感じじゃない。
こねるうちに乳首が立ってきた。軽く撫でまわしてやる。
「きゃふ・・・あうん・・・」
エミルが、困惑した声を漏らす。ほらな?

俺はベッドに手をつくと、上半身を起こす。エミルが俺に身体を預けてる体勢だ。
また、ふわっといい匂いがする。こういう体臭なのか?
「きゅうう・・・」
涙目だけど、痛いというより混乱してる感じのエミルに笑いかけ、頭を撫でてやる。
そして、俺はぐるんと身体を入れ替えた。
エミルが下で、俺が上だ。
獣人の娘の太腿を抱え、大きく開かせる。これで結合部がもろ見えだ。
奥まで届いてはいるが、エミルは身体が小さくて、だから膣も小さい。全部は入っていない。
もう少しなら入りそうに感じ、ぐうっと腰を押し付けた。

「きゃ、あう、きゃいん」
ペニスがわずかに滑り込む感触があり、エミルがまた悲鳴を上げ、のけ反る。
入れられるの自体はまだまだ痛いらしい。
だけど俺は構わず、腰を軽く引いて、圧力を少しだけ緩めてから突っ込み直す。
「きゃ、きゃうっ・・・」
エミルが小さな身体をぶるぶる震わせ、懸命に痛みを堪えている。
その様子が実に愛らしくて、もっと激しく責めたくなる。

ぎゅっ。
「きゃいっ・・・」
ぎゅ、ぎゅ、ぎゅっ。
「きゃふ、あうん、きゃううう」
抜き差しするたび、エミルが悶え、もがく。
柔らかい肉が俺のペニスを包み、締め付け、くすぐる様に蠢く。
「さあ・・・種付け・・・してやるからな・・・」
俺は喘ぎながら、エミルの中に精液を放った。
どくっ! どくっ! どくっ!
溜まっていたとは言え、我ながら呆れるほど大量に、獣耳の小さな娘の身体の中に、注ぎ込み続ける。
脇から溢れ出し、ベッドに垂れ落ちていくのにお構いなしに、更に射精する。

「はあっ・・・はあっ・・・」
エミルの中から抜き取ろうとしたが、きつくてなかなか抜けない。
「きゃう・・・・」
エミルも少し痛そうな声を上げる。
ぎゅぷっ。
やっとペニスが外に躍り出た。まだいきり立ったままで、かなり元気だ。
でも俺の本体の方が、妙にへとへとになっている。あと、酒がいよいよ回っていた。
「ははは・・・お前、良かったぜ・・・」
やけに可愛く感じてきたエミルの頭を、もう一度撫でてやる。そして。
ばったり。
エミルの横で、俺はベッドに寝転がった。
疲れた・・・ぜ・・・。


目を開く。爽やかな気分だった。
窓の外も明るい。もう朝らしい。唯一の問題はそろそろ尿意が切迫してるくらいか。
とりあえず起きてトイレに行って・・・。

爽やかな気分はそこまでだった。
おい。俺は昨日・・・何をやらかした?
酔っていたけど、生憎と言うべきか、不幸中の幸いと言うべきか、記憶ははっきりしてる。

エミルを犯しちまった。どう考えてもあれは合意じゃない。強姦だ。
そして、エミルは俺とのセックスで派手に出血していた。
つまり・・・未使用だった可能性が高い。
もうフレッドと経験済みだったが、俺の行為が激しかったから・・・なんて可能性はないな。
シャワー室で見ちまったことがあるんだ。フレッドは優男のくせに、えらい巨根だった。
あれを使用済みだったら、俺との行為ごときで出血するはずがない。

だいたい昨日の反応自体、いちいち初心かった。もろ未経験っぽかったろ。
つまり、だ。
フレッドはエミルを、ただ純粋に、可愛がってただけだったんだ。
それを、俺が・・・う、うあああ。
叫び出したくなる。
まるで、後を頼むと兄に託され預かった妹を、欲望のままコマしちまったみたいじゃないか。最悪だ。

判ってる、誰も俺を責めないし、これを問題にしてるのは俺だけだ。
何かの法律を表だって破った訳じゃない。だってエミルは俺の持ち物なんだ。
引き取ったペットを虐待するのは倫理上よろしくなかろうが、それだって第三者がどう思うか程度だ。
でもその肝心の俺が、今回自分の仕出かした行為を駄目と判定してる。
ああちくしょう、どうしよう。

「・・・ん?」
ひたすら焦っていた俺は、隣に何かいるのに気付く。
いや、何かじゃねえよな。自分で連れ込んでおいて。
エミルだ。俺の脇腹にしがみつくみたいな恰好で、眠っている。
実に安らかな寝顔で、なかなかどうして可愛い。

いやいやいや。可愛い、じゃねえだろ。そんな平和な感想抱いてる場合じゃねえ。
でも・・・あれ? なんでこいつ、ここで寝てるんだ?
別に鎖を握られてた訳じゃない。せめて寝室からでも逃げるなりすりゃいいのに。
なんで、あれだけ痛い事した相手のそばで、そのまま寝てるんだ。

とりあえず、そおっと身体を離そうとした。
「・・・あふぅ・・・」
エミルが起きてしまった。起き抜けの目で俺を見る。
そして手を改めて伸ばして俺の胸に触れ、身体を摺り寄せると、安心した様に目を閉じた。
しばらくすると、すーすーと寝息を立て始める。
何だ今のは。
露骨に怯えられたり、悲鳴を上げて逃げられるより、気分的にはましだけどよ。

力ずくで犯した引け目もあるので、寝たいのならまだ寝かせておいてやりたかったが、あいにく俺のほうがそろそろやばい。
具体的に言うとトイレの限界が近い。
それに、あのまま寝たせいもあって、下半身がごわごわしてて少し突っ張るし、ズボンも染みだらけだ。
しゃあない。起きよう。

俺が起き上がると、エミルもまた目を覚ます。
「風呂いくぞ、ついてこい」
そう言うと、エミルはこくりと頷いた。
床に垂れてた鎖を拾うが、引っ張るまでもなく、素直にエミルは付いてくる。
そしてあいつが普段いる辺りのバスルームに入った。

まずは便器のほうで、俺の、切迫していた生理的欲求を解消する。
さて次は・・・まあ、シャワーでいいか。
しかし首輪をしたままじゃ、ワンピースを脱がせられない。俺はかがみこみ、エミルの首輪を外していく。
そして、その途中でとうとう言ってしまった。
「・・・夕べは悪かったな」
「わう?」
「酔ってたってのもあるが・・・てっきりお前は、もうフレッドが、その・・・種付け済みだと思って、なら、まあいいかって・・・すまん」
「きゃうぅ・・・」
フレッドの名前が出たとき、エミルは少し寂しそうな、諦めたような表情をした。
そういうのが判るだけの知能はあるんだな。そうだよな、だっていつも・・・

手を上げさせ、すっぽりとワンピースを脱がせる。
内股に血の跡が残っていた。また後悔がちくりと襲う。
とりあえず、適温にしたシャワーを頭から浴びせてやった。軽く身体をこすって、次に股間に手を入れる。
そこを触れられた時、エミルは一瞬びくっとしたが、逃げはしなかった。
小さくて可愛い性器を、出来るだけ優しく撫でながらぬるま湯で洗ってやる。
「きゅうっ・・・きゅうぅん・・・」
ちょっと痛いのか、エミルが声を漏らす。感じてるって声じゃない。
こっちも素面だから、何かしたりはしなかった。だいたい、まだ痛いんだろここ。そんな鬼畜じゃねえぞ俺は。
・・・いやいや、それ以前の問題だろう? 痛がらなかったら何かするのか?

次は自分だ。既にぐしょぬれになってた服を全部脱ぐ。
執拗に洗う必要も感じなかったので、全身に軽く湯を浴び、ささっと洗うに留めた。
最後にバスタオルで、今度はまず自分を拭き、次はエミルを拭いてやる。
そしてワンピースを着せ、首輪を付ける。こっちも簡素な部屋着を引っ掛けるだけで済ませる。

エミルをいつもの位置に戻し、鎖の端をフックに引っ掛けてロックした。
正直、このロックはいらんのかもしれん。
留守の間に勝手な場所に入り込まれるのを防ぐための代物なんだが、こいつがそこまで行儀が悪くないのはもう理解したしな。
でもエミルは特に不満そうにもせず、おとなしくいつもの、テント横のクッションにうずくまった。
そう、いつも通り・・・あれ?

違和感の正体に、やっと気付く。
そうだよ、こいつ、ずっと死んだフレッドの写真を持ってたろ?
あの写真立てはどうした? 何が何でも離さないぞ、とばかりに抱え込んでた写真立ては。
捨てるはずはないし、捨てれば俺が気付く。まだあるのなら・・・
あり得るのはテントの中だ。
俺は咄嗟にテントの中に顔を突っ込んだ。
「きゃう!?」
エミルが驚いた声を上げる。
テントは生地が薄いので、外の光が漏れて入り、中も多少は明るい。
そして・・・あった。

エミル用のエサの空箱が持ち込まれ、その中に、写真立てがきちんと収まっている。
大事に保管されてる。ちゃんと、意図的に、大事に。
だからもう抱えてなかったのか・・・置き場ができたから。

俺はテントから顔を抜き出し、その場でへたっと床に座り込んだ。

何で気付かなかったんだよ。
こいつには大事な物を所有し、保管するって概念があったんだ。
でも、このテントを与えるまで、自分用の持ち物を置く場所がなかった。
別にずっと写真を抱えて、めそめそしてた訳じゃなかった。
ずっと、手放さない様にするしかなかった。
だって・・・そうしないと俺に捨てられちまうから。

俺も昔、両親が死んで、親戚が一応は引き取ってくれた。
その時、俺の部屋はなかった。
最初はどうしようかと思ったが、学校に持っていく物を置く場所くらいはあった。
そこにこっそり、他の私物を混ぜ込むくらいはできた。

でもこいつにはそれすらなかった。俺がそれを、思いつきもしなかったからだ。
フレッドの家を片付けた時、家財を撤去し始めたら、エミルが焦って写真立てを抱え込んだろ。
その時にどうして気付いてやれなかった?

そして、他にも有ったんじゃないか?
こいつとフレッドとの思い出の品、残しておきたかった物は、まだ有ったんじゃないか?
でもエミルには何もできず、そういう思い出の品が、全部捨てられていくのを黙って見てるしかなかった。
こいつにとって俺は、大事な物を何もかも奪い、捨ててしまう、悪魔みたいな存在だったんじゃないか?

俺は頭を抱え込んだ。
もう取り返しがつかない。一か月も過ぎてしまったから、今更何も残っちゃいない。
「きゅうん?」
エミルが不思議そうに、俺の様子を伺っている。
「お前、ほんとはもっと他にも・・・」
「あうん?」
「・・・とにかく、だ。この写真立ては、何があっても絶対捨てたりしないから、安心しな」
「わうっ!」
エミルが嬉しそうに笑顔で鳴いた。
くそ。そんなので無邪気に喜ぶなよ畜生。笑顔が胸に堪えるぜ。


「あの犬と・・・寝たの?」
2日後、俺の家の寝室で、サリィが言った。
ベッドの上で、もう半分脱がした状態だったんだが。
「なんだ唐突に」
「匂いがするのよ、ここ! あの犬?」
ぱんぱん、とベッドを手ではたき、怒った口調で言い放つ。
「匂い? そんなの判るのか?」
思わず素直に聞き返した。俺にはそんなの判らなかったからな。汚れたシーツはさすがに取り替えたし。
だが、この言い方だと認める事になるのかな。

「じゃあ、寝たのね?」
「・・・お前に言われて、ちょっと興味が出ちまってな」
さすがに酒に酔った勢いで強姦したなんて、危険人物扱いされそうな事を言えるか。
それに実際、サリィの発言が無かったら、エミルをそういう用途に使う発想は、あの時点じゃ出なかった。
そういう意味じゃサリィもあの出来事の遠因ではあるが、別に彼女のせいにするつもりはない。

「帰る」
服を整え直しながら、サリィがベッドから立ち上がった。
「え?」
「犬の寝たベッドなんか嫌よ。あたしはちゃんとした人間なんだから。それともあなたには、犬も人間も同じなの?」
「同じな訳ねえだろ」
「じゃあもう、2度とこんな真似しないで。とにかくあたしはこのベッドはもう、絶対使いたくないわ」
そう言ってサリィは勢いよく寝室から出て行き、俺は慌てて追いかける。
居間にはエミルの姿は無い。テントに潜り込んでるようだ。
丁度良かった、今サリィがあいつの姿を見たら、何かしでかしそうだったからな。

「じゃあね。次までに犬は処分しておいて」
そう言い捨て、サリィが玄関から立ち去る。
さすがにこっちは半裸だから、外に出て追いかける訳にもいかん。通報されちまう。

くそ、無茶言うなあ。処分できるなら最初から引き取ってないっつの。
でもあいつ、最初の物言いじゃ判らなかったが、実は獣人が嫌いだったのか。
だとしたら悪い事したな。ちょっとは気を使うべきだったか。
でも、だからって処分しろはないよなあ。

居間に戻ると、テントからエミルがぴょこっと顔を出した。
俺しかいないのを確認すると、這い出してくる。
サリィの剣幕から、自分が見える所にいない方がいいと判断したのか? 結構頭いいな。

エミルが申し訳なさそうな顔をしていた。サリィの発言聞いたのかもしれんな。
俺はテント脇に立つエミルに近づく。
「気にするな、お前のせいじゃねえよ」
「きゅうー・・・」
ま、正確にはエミルのせいっちゃせいだが、こいつが悪い訳じゃない。
むしろ悪いのはこいつを強姦した俺だ。だから、申し訳ないのも、むしろこっちだ。
どうもエミルに対しては、俺は悪い事ばかりしまくってるな。

俺はエミルの頭を撫でながら、言ってやった。
「それにな、心配もしなくていい。いまさらお前を処分したりしないから」
「・・・くうん」
あ、ちょっと嬉しそうな顔をした。俺は軽く苦笑する。
「ただな、どうもサリィは獣人が嫌いっぽい。次からあいつが来たら、姿見せないほうがいいぜ」
「あうん」
エミルが頷く。こういう様子を見ると、こっちの言うことを完全に理解してるとしか思えん。
ていうか、してるだろこれ、完全に。

しかし。やれやれ、せっかくサリィが来てくれたってのに。
「はあ」
俺はため息をつくと、居間の中央にあるソファーまで戻ろうとした。
「わう、わう」
背後から、エミルの声。
「ん?」

振り返ると、エミルが俺をじーっと見ている。
「なんだよ」
「・・・きゅぅ・・・」
エミルが俺の顔を見たまま、ワンピースの裾を掴み、そろそろと引き上げた。
もちろん下は裸だ。自分の下半身を晒しながら、エミルがこっちをじっと見続けている。

「サリィが帰っちまったから・・・代わりになろうかってか?」
「あん」
一声鳴いて、頷く。
「・・・いいよ、そんな事せんでも」
「きゅう?」
「いいから。だいたいあれ、お前は痛かったんだろ。無理すんな」
「・・・きゃう・・・」
エミルは裾を離し、幼い身体は布に隠れた。
ちょっと惜しかったかな。・・・何考えてる俺。

俺は寝室に戻り、ベッドにどさっと乗っかる。
・・・ああ。なるほど。
ほんのりと、俺のじゃない体臭がする。これか。注意すると確かに判るな。
別に嫌な匂いじゃない。あと、匂うと言ってもごく薄い。
そりゃまあ、ここでエミルを抱いてから、もう3日近く経ってるんだ。薄くもなるさ。

ベッドに転がったまま、エミルの体臭に包まれ、ぼんやりとその時の事を思い出す。
俺の身体の上でのけ反る幼い肉体。組み伏せられてもがく、華奢な身体。
そして・・・

「・・・」
俺はゆっくり起き上がった。そのままベッドを降り、寝室を出る。
エミルはクッションの上にうずくまっていた。
俺が近づくのに気付き、こっちを見上げる。俺はその脇にしゃがみこんだ。
「・・・なあ、さっきの・・・まだありか?」
「きゃう?」
「お前に種付け・・・してもいいか?」
「・・・あうん」
こくり、とエミルが頷いた。

鎖をフックから外し、寝室にエミルを連れ込む。
ベッドの横で、もう一度だけ聞いた。
「いいんだな? お前、こないだやたら痛がってたけど、本当にいいんだな?」
「わん!」
エミルはちょっと耳が伏せ気味だったが、はっきりと頷いた。
やせ我慢してるのかもしれんが・・・確認はしたんだ、遠慮はせんぞ。

エミルをベッドに上げ、ワンピースをめくり上げる。
体格的にはまるで子供だ。胸もろくに膨らんでない。
さて、こないだはさっさと突っ込んじまったが、今日はそこまで焦ってる訳じゃない。
それに、色々と申し訳ない引け目もある。ちったあサービスしてやるか。
まず、小さな胸を撫でてやる。
「きゃう・・・」
お、乳首が勃ってきた。その辺りを輪を描くように撫で回す。
「あうん・・・あうん・・・」
ちょっと切ない声。うん、この辺りはこいつも気持ちいいんだな。
前回も乳触った時は、そこまで辛そうじゃなかったもんな。

ふにふにと、小さな膨らみを揉みながら、口を付けて咥えてみた。
「あうぅ・・・きゃうん・・・」
乳首を舌で押すと、ぷくっと押し返してくる。
サリィの豊かな乳房はなかなか弄り甲斐があったけど、こういうのもまた面白いな。

ちゅくちゅくと乳を吸ってやると、エミルが身体をもじもじさせながら声を漏らす。
「きゅうぅん・・・きゅう・・・きゅふ・・・」
いっちょ前に感じてるな。まあその方がこっちも気が楽だ。
さもないと子供を苛めてる気分になっちまう。

とはいえ、こんな子供向けみたいなソフトな可愛がり方ばっかりじゃ、こっちが物足りん。
悪いがそろそろハードな方に行かせてもらうぞ。
乳から口を離すと身体を起こし、エミルの太腿を掴んで、左右に大きく広げる。
いざ御開帳。
そういやこいつ、毛でふさふさの獣耳だの尻尾だの生えてるくせに、ここはつるっつるだ。
指を当てると、ぱくんと軽く開く。
身体と同じで、ちっちゃい性器だ。ちょっと傷が残ってるが、大丈夫なのかね。

いきなり突っ込むのも何なので、俺は今度はそこに口を付ける。
「きゃんっ」
エミルが小さく悲鳴じみた声を上げる。
声の調子からすると、痛かった訳じゃないみたいだ。驚いだだけか。
ぴちゃぴちゃぴちゃ。舌を伸ばして舐めてやる。
そんなに匂わない。むしろ、ここだけならサリィの方が臭いくらいだ。
「きゅ・・・きゅうう・・・きゃふ・・・きゃふ・・・」
ちょっと混乱しながら、エミルが絞り出すように声を出す。
段々その辺に、粘っこくて酸っぱい液が溢れてくる。
へえ。ちゃんと感じてるのか。

「きゃうぅ・・・あん、あうん・・・・あうん・・・」
鳴き声がどんどん艶っぽくなってきた。本格的に感じだしたな。
声だけじゃなくて、身体もびくびく震えている。
なんだ、本当に人間の女といっしょなんだな。同じ様に感じてるぜ。

しばらく舐めてから、口を離す。
エミルはぐったりと身体を弛緩させていた。身体じゅうが上気し、頬も赤い。
顔も、うっとりした感じで、目がぼんやりしている。
「せっかく気持ちよがってるようだが、そろそろ痛い事するぞ? 覚悟はいいか?」
「・・・きゃふ・・・あ、あうん」
ちょっと我に返ったのか、エミルが俺の顔を見つめた。
ちょっと目を伏せ、そして頷く。
「あん」

ズボンを降ろす。俺のペニスはすっかり硬くいきり立ち、先走りで濡れていた。
この獣少女の感じる様が可愛くて、こっちまでもう、すっかり興奮していたからな。
エミルはそのペニスを見てわずかに怯えるが、目を閉じて堪える表情をする。
覚悟完了か。いいだろう。

エミルの性器を指で広げ気味にして、その中央に亀頭をあてがう。
ぐりっ。軽くめり込ませた。
「きゃう・・・ん」
悲鳴を上げかけたエミルがそれを押し殺す。ほほう。本当に我慢する気なんだな。
ぐぐぐ・・・ぐりゅ。
「きゅ・・・きゅ・・・」
更に少し入り込ませると、エミルが身体をぷるぷる震わせながら、それでも一生懸命耐えている。
もう支えは要らないな。
俺は広げていた指を離すと、エミルの太腿をしっかり掴んだ。
腰で、ぐうう・・・っと力を掛けていく。

めりめりめり。小さな膣をこじ開けながら、俺のペニスがエミルの中に食い込んでいく。
びく、びくっとエミルが震え、喉の奥から悲鳴をかすかに漏らす。
ぐ、ずりゅっ!
粘膜をこそげ取りそうな擦れ方とともに、一気に潜り込んだ。
「ひゃんっ・・・・」
さすがにかなり痛かったのか、エミルがとうとうはっきり悲鳴を上げ、のけ反る。
ぐ、ぐ、ぐっ。
「きゅうっ、きゃん、きゃんっ」
更に奥まで突き込むと、涙目でエミルが声を漏らす。
でも、抵抗はしていない。

ぎゅっ。
「あうんっ・・・」
くく・・・ぐっ!
「あう、きゃうんっ」
俺が出し入れを始めると、獣少女が喘ぎ始める。気持ちいいというより苦しそうにだが。
だが覚悟はしたんだろうから、こっちも加減はしない。
ぱん、ぱん、ぱん。
「きゅ、きゅ、きゅっ」
身体のぶつかる音に、エミルの短い声が混じる。
ぷるぷる震え、懸命に堪えている様子がいじらしい。

俺は少しだけ腰の動きを止める。
そして手で、またエミルの小さな乳を愛撫してやった。
「きゃふぅ・・・・きゅん・・・・」
ふふ、こんな状態でもそこは気持ちいいんだな。膣の緊張がほんの少しだけ緩んでくる。
まあ、それでもきつきつだけどな。

乳を撫でたり揉んだりしながら、下の動きを再開する。
しっかり結合済みだから、太腿を抱えてなくてもエミルの身体があらぬ場所に逃げたりはしないからな。
「きゅふう、きゃふ・・・きゃふ・・・」
さっきと違い、苦しそうな声にも少し甘い響きがある。
まあ、ちょっとはこの子が気持ち良くなってもバチは当たらんだろ。
何か悪いことした訳じゃないんだし。
悪いことしてるのはもっぱら俺だ。

ぐっと身体を寄せ、エミルの背中に片手を回す。そのまま抱え上げると、俺も身体を起こした。
座ってる俺の腕の中に、小さなエミルの身体がすっぽり収まっている。脚ははみ出てるが。
「きゅうう・・・」
結合部にエミル自身の体重が掛かり、ペニスで中を突き上げられて、苦しそうな声を出す。
震えるエミルの胸を、もう片手で揉んで、乳首を軽くつまみ上げてやった。
すると目に見えて、表情が和らぐ。ほんとに乳が感じるんだな。
俺は、ゆっくり体全体を揺さぶってやる。
色々慣れてきたのか、エミルが悲鳴を上げなくなってきた。
「きゃう・・・あうん・・・あうん・・・」
顔が赤く、息も荒い。
揺さぶられながら、その動きで次第に感じ始めている。

しばらくその体勢を続けた後、俺は仰向けになった。
腰の上にエミルが乗っかった体勢だ。それで気づいたが、今回もエミルは少し出血してる。
でも、当人はそんなに辛そうじゃない。
「きゅ・・・きゅふ・・・」
小さい声で喘ぎながら、自分からゆっくり腰を動かしてる。
時々顔をしかめるから、やっぱりまだ痛くはあるんだろう。
でも本当に、我慢できる程度には慣れたようだ。

手を伸ばし、エミルの胸を可愛がってやる。
「きゃうんっ・・・きゃう・・・・ん」
気持ちよさそうにエミルが目を細め、膣が俺のペニスをリズミカルに締め上げる。
ここまでかなり頑張ったが、さすがにそろそろ、こっちも限界だった。
「エミル、いっぱい種付け、してやるからな・・・」
「きゅううん・・・」
エミルが喘ぎながら頷いた。ああ、ほんと可愛いな、こいつ・・・。
どくんっ!
どくどくどくっ!
俺はその可愛い娘の中に、精液を叩きつけるように放出していく。
「きゅ・・・くうん・・・」
エミルが小さくのけぞる。入って来るのを感じたんだろう。
やがて、くたっとミルが、俺に被さるように、倒れ込んできた。
「きゅうぅ・・・くぅぅん・・・」
へとへとになったエミルは、どことなく甘えたような声を出していた。

一休みしてから、二人してバスルームに向かった。今回はお湯を溜める。
身体の外を洗ってから、二人で湯船につかった。
エミルは溜まったお湯に入るのは初めてじゃないらしい。そうだろうな、フレッドの可愛がり方ならそのくらいやってたんだろう。
そして俺は、湯船の中で、ついついエミルに悪戯してしまう。
逃げられない様に抱きかかえ、弄ったりつついたり揉んだりしてな。
だって、こいつの反応がいちいち可愛いんだ。

ただ調子に乗り過ぎて、すっかり湯でのぼせてしまったエミルを、慌てて抱きかかえて運び出す羽目になった。
その後、回復するまで居間のソファーに裸で寝かせ、しばらく煽いでやる。

ううむ、どうしようかな。
「なあ、別にお前に鎖付けなくても、部屋で余計な事しないとは思うんだが・・・」
「きゃう?」
「気にする奴がいるからなあ。鎖付けられるの嫌か?」
「あうん」
エミルは首を振る。
「いいのか?」
「きゃう」
今度は頷いた。そうか・・・なんか悪い気はするが、それならまあ、いいか。

エミルにワンピースを着せ、首輪を付けなおし、鎖を元の場所にロックする。
するとこいつは大人しく、いつものクッションの上にうずくまった。
こうしてると、まるで少し前と変わらなく見えるんだが。
いや、実際変わってないのかもな。見方が変わったのは俺のほうだ。


確かにエミルは可愛い。俺はかなり見識を改める羽目にはなった。
でもやっぱりこいつは獣人であって、あくまでペットだ。
その辺の区別がちょいと怪しくなってるのは認めるが、人間じゃない事に変わりはない。
だからまあ、そういう対応はしなきゃな。

わざわざこっちから外出して、やっと連れてきたサリィは、玄関から入ると開口一番に言った。
「処分したのよね?」
「ああ」
廊下を進み、居間に着く。サリィはテントを怪訝そうに見て、言った。
「なんでテントが残ってるの?」
「まあまあ。ほら、こっちだ」
寝室の扉を開け、入る。
「ふうん?」
サリィが新品のベッドを感心したように見た。

「前のベッドは絶対嫌って言ったろ? あれは処分した」
「・・・ちょっと待ってよ」
「これは新品で、しかも新製品だぜ。最先端だ」
「どういう事? 犬を処分したんじゃなかったの?」
「あいにく、あっちは友達の形見だからな。今後お前が気にするような状態にならんように気を付けるから、勘弁してくれ」
「・・・でも犬の臭いがするわ」
「気のせいだ、するはずがない。ベッドの新調後は、エミルはこの部屋に入ってもいないんだ」
俺は肩をすくめた。それについては、一切嘘は言っていない。

サリィが俺にぐいっと迫る。腕をつかみ、胸板に顔を寄せた。
「・・・犬の臭いよ」
「そ、そりゃあさすがに同じ家にいるんだし」
とん。胸を軽く突かれる。
「犬を処分して。話はそれからよ」
「サリィ・・・」
「またね」
サリィは一人で寝室を出ていき、俺は慌てて後を追ったが、彼女は黙って玄関から立ち去った。

確かに俺もあまり強くは言えないが、サリィの態度は依怙地すぎないか?
生き物だぞ? それをどれだけ気に食わないからって、あっさり処分しろって言い放つなんて。
俺は溜息をつきながら居間に戻る。
エミルがテントから顔を出し、それから全身這い出した。心配そうに俺を見ている。
「なかなかご機嫌直してくれんなあ。まあ気長に懐柔するよ」
「きゅうん・・・」

人間じゃない事に変わりはないが、なら好き勝手に処分できるかと言われれば、答えは否だ。
そうだよ、いつの間にか俺は、こいつがすっかり気に入っちまった。とても大事なペットになってしまった。
サリィより優先しようとまでは思わないが、サリィのためにこいつの命を奪うなんて、考えたくもない。
どうにか折り合いが付けばいいんだが。

それに、そろそろ次の仕事のために出発しなきゃならん。
またしばらく戻れないから、できれば今のうちに仲直りしておきたかったなあ。
「わうんっ」
エミルがまた、ワンピースをめくり上げて俺を見つめる。
あのなあ、それが俺に対して一番の慰めになるとか思ってないか?
・・・いまいち否定できんが。
「そうだな、じゃあ出かけるか」
俺は苦笑気味に答えた。

室内では裸足のエミルに靴を履かせる。
首輪と鎖はそのままだ。むしろ外に出るならこれがないと厄介な事になる。獣人の屋外での放し飼いは禁止されてるんだ。
鎖で引っ張り回す必要は無いけど、たとえ手をつないでいようと、鎖なしは許されない。
さて、俺は外出したばかりなので、着替えは特にいらない。いや、格好つけのスーツは脱いどくか。
それから2人して部屋の外に出た。エレベーターで地上階まで降りる。

路地をぶらついてると、たまに視線が飛んでくる。連れているエミルが珍しいんだろ。
特に気にせず路地を抜け、やや裏道っぽい所に出る。
宿泊施設の類の看板が目立つ場所だ。でも別に観光地じゃない。
俺はそのうちの一軒に入った。
中はほぼ全自動だ。自動販売機みたいな機械に映ってる一覧から、目当ての部屋を選ぶ。
金額が表示され、それを前金で払うと、時間制限つきのカードキーが発行される。
後は部屋に行くだけだ。ここは要するに短期休憩専門の宿で、まあ、いわゆるラブホテルって奴だよ。

サリィに言ったのは、その言葉の範囲内では本当だ。
ややこしい話になるのを避けたかったので、ベッドを新調して以後、寝室どころか俺の部屋でエミルを抱いていない。
ただそれが、性行為をしていないという意味にはならないだけで。
もちろん、サリィの言ってる論旨が、外でならエミルを抱いていいって意味じゃないのは判ってる。
でもどのみち、全てを彼女の言うとおりにゃできん。エミルを処分しろって極論には従えないからな。

エミルの首輪を外して服を脱がせる。こっちも脱いで、一緒にバスルームに入る。
軽く身体を温めるついでに、ここでエミルを弄くって遊ぶんだ。
「きゃふっ・・・きゃう、きゃうん」
股間をくちゅくちゅされ、エミルが身体をくねらせて喘ぐ。
だいぶ、素直に感じるようになってきたな。
ま、こうやって彼女の身体をほぐしておけば、その後の本番でも、多少は痛がらないからな。
純粋に、弄くられて悶えるエミルが可愛いから、遊んでしまいたいってのもあるが。

俺の手でほぐされて、いい感じに出来上がって脱力してるエミルを、お姫様抱っこでベッドに運び、そこで容赦なく襲い掛かる。
ただし、すぐに突っ込むわけじゃねえぞ。
そこでもまた、弄繰り回してやるんだ。
身体中を突付いたり揉んだり吸ったりし、可愛い性器もかき混ぜたり舐めたりこねくり回して、まずはたっぷり濡らしてやる。
あと前回から、エミルに俺のをしゃぶらせるのを教えている。
まだ全然たどたどしいが、新鮮でいい感じだぜ? それにサリィは銜えてくれたことなかったしなあ。

そんなこんなで目いっぱい前戯をこなしてから、いよいよ本番だ。
これだけやっても、まだエミルは痛がって泣くんだけど、嫌がったりはしない。
半泣きでもちゃんと、一生懸命に受け入れようとしてくれる。
それにもう、痛いばっかりでもない。
段々と、入れられる事自体でも、感じてくれるようになってきた。
ちゃんと喘いで、よがってくれるんだ。まあ、半泣きでだけど。
そんなエミルに俺は、いっぱい注ぎ込んでやる。それこそ妊娠しそうな勢いでな。
だってこれは、種付けなんだから。たとえそれが本当に適う事がなくても。

一通りこなした後は、時間いっぱいまで、ベッドで抱き合って休む。
まあこの間も、ちまちま弄くってやるけど。
たっぷり堪能して、そしてホテルを出た。
エミルが嬉しそうに俺にしがみついている。まるで恋人同士だね。首輪と鎖がなけりゃだが。
あと、いささかエミルの外観が幼すぎるのもちょっとな。耳と尻尾は置いといても。

すると突然、エミルが俺の手を引っ張った。
「ん? なんだ?」
「あうん、あう」
「なんだよ、どこに連れて行きたいんだ?」

彼女の行きたかったのはそのすぐ近く。おもちゃ屋で、路地に面したショーウインドウに彼女は張り付く。
「・・・それが欲しいのか?」
「きゃうん」
「・・・ま、いいけど・・・」
彼女が張り付いてた所の中に飾られていたのは、子供向きのおもちゃだ。
明るい黄色の薄い板で、専用のペンを使うと表面に絵が描ける。
そして板の端っこのレバーを動かすと、描かれた絵は全部消えて最初の状態に戻る。
子供がお絵かきするための、使い減りしない道具だ。

店に一緒に入ると、俺はその玩具を注文した。在庫はあったのですぐ現物を受け取れる。
特にプレゼント用の包装などはせず、店を出たらエミルに、すぐにそれを渡した。
エミルはさっそく包みを開ける。
絵でも描きたいのかね。もしそうならちょっとレアなんじゃないか? 絵描き志望の獣人なんて。

たん。たつたつたつ。板の表面をエミルはペンで突付いて、そしてくるりとこちらに見せた。
『ありがとう』
少々ゆがんだ字だが、はっきりそう書かれていて、ちゃんと読めた。

・・・って・・・え、ええええ!?

「お前・・・字が書けたのか?」
エミルは板を裏返し、何か書き足してから、またこっちに向ける。
『うん』
「どこで・・・どうやって覚えた?」
今度は彼女は一度、レバーで表示内容を全部消してから書き直す。
『フレッドがおしえてくれた』

あ、ああ。何となく納得。確かにありそうだ。
でもそもそも獣人って、そういうの覚えるものなのか?
いや、おかしかない。だってエミルはこっちの言ってる事をだいたい理解できてるんだ。
なら字くらい覚えても、不思議は無いか?

たたん、たん。
『えほんをいっぱいもらっておぼえた』
「なるほど・・・」
『これはフレッドのくれたのとおなじ』
一瞬悩み、要するにこのおもちゃと同型のをフレッドがエミルに渡していたんだと理解する。
『これがあったらおはなしできるからほしかった。かってくれてありがとう』
少し文章が長すぎて、最後のあたりは字が小さくなっていた。

ありがとう、じゃねえよ。
やっぱりだ。やっぱり、本当は捨てちゃいけないものはあったんだ。
フレッドの家にはエミルのための絵本や、このおもちゃが・・・未婚のフレッドの部屋にあるにしては、明らかに不自然な代物があったんだ。
エミルにとって重要で、思い出深いはずの物。
それなのに、俺は全部捨ててしまった。気づかないまま。
何のために、家財道具の処分に立ち会ったんだよ、俺は。
畜生、この目はただの節穴だ。

「あうん?」
エミルが俺を心配そうに見上げた。
俺が泣きそうな顔をしてたからだろう。
大事なものを一方的に捨てられ、失った経験くらい、俺にだってあるんだよ。ああ、くそ。

わしゃわしゃわしゃ。
「きゃんっ」
突然俺に頭をかき回され、エミルがいささか驚いてる。
俺はかまわずエミルの頭を撫で続ける。
ごめんな。謝っても何も戻ってきはしないけど。
せめて、これからはお前の大事なものが無くならないように気をつけるから、許してくれ。
思ったけれど口には出せず、俺はエミルを撫で続ける。
そしてエミルは、もう眼を閉じていて、気持ちよさそうに俺に撫でられるままになっていた。


意思の疎通が可能になったおかげで、色々判った事がある。
例えばエミルはフレッドの家に居る時から俺を知ってた。フレッドが話してたし、写真も見せてたんだ。
一度家に招待するつもりもあったらしい。
だから実は、家財一式を捨てられはしたけど、俺に対してそんなに悪い感情は持っていなかったんだそうだ。

それから・・・フレッドとエミルって、実はまるっきり清い関係でもなかった。
時々一緒にバスルームに入って、フレッドに身体を触られたり、乳を愛撫されたりした事があるそうだ。
だからエミルはそう言う行為に、それほど強い抵抗はなかった。
でも、フレッドはそれ以上をしなかった。エミルが壊れちゃうから、と言われたそうだ。
うん、まあ、そうかもしれんなあ。
エミルの表現が話半分だとしても、あいつ、勃起したら相当すごかったらしい。
だからエミルは挿入もフェラチオも未体験だったけど、触らせてもらった事はある。
入れない代わりにフレッドはオナニーで済ませたんだけど、手伝って一緒にこすってあげたそうだ。
その光景を想像すると、ちょっと面白い気もする。

フレッドにとってエミルは玩具じゃなくて、家族に近かったんだ。
だからだな。たとえば妻帯者が友人に、自分の妻についての性的な話をするか?
あいつがエミルについて話をする時は、家族や恋人の日常について話すのと同じ感覚だったんだな。
それで、特にそんな要素を感じなかったんだろう。


さてさてさてと。
今回の仕事はそこまで長引いた訳じゃないが、かなりむかついた。
組まされたパイロットが・・・何ていうか微妙に無能なんだ。
技術的には必要なものは持ってる。そうでなきゃそもそも仕事ができん。
だけど、実践がいまいちなんだ。
1つの前提に1つしか答えをもっていない。例外的な状況になるとまったく動かん。自分の担当じゃないからとか言って。
学校のお勉強じゃあるまいし、現実がそんな教本どおりの条件ばかりな訳ないだろ。
しかもこれで新人だってのならまだ判るんだ、経験が足りないだけだろって。
ほどほどの年数この仕事やってるんだぜ。それでこの有様はねえだろ。


帰宅すると、居間ではエミルがちゃんと待っていてくれた。
まあ首輪も鎖もあるから、どっかに行ったりはできないがな。
まず抱きしめて、頭を撫でてやる。
「くぅうん・・・・」
10日もひとりっきりで、寂しかったんだろうな。しっかり抱きつき返してくる。

さてと。
サリィに連絡を取ってみたんだが・・・。
「いない?」
彼女の仕事場の同僚が、サリィは私用で午後から出かけていると教えてくれた。
じゃあってんで自宅に連絡するが、こっちは応答がない。
なんだよ間が悪いな。
冷却期間を置いたから、ちょっとは譲歩してくれないか話し合ってみたかったんだが。
どうするかなあ。

エミルがうずくまってるクッションの方を見る。
彼女は俺の視線に気づき、上体を起こすとワンピースをめくって見せた。
「きゃう?」
裸の下腹部を見せながら、する? って感じで聞かれる。
ぶっちゃけ、この位の事では、もう言葉はいらんな。
「そうだな。お前も久しぶりだろうし・・・俺もお前に、種付けしてやりたい気分だしな」
「あうん」
エミルが嬉しそうに答えた。

別にどのホテルを利用するって決めてる訳じゃない。行く場所は同じだけど、ここにはホテルは何軒もあるからな。
毎回、気が向いたのを選ぶだけだ。
今回は、初めてのホテルの初めて部屋だ。
やたらギミックに凝ってて、ベッドが勝手にうねったり揺れたりする。
そして鏡がそこら中にある。
バスルームはガラス張りで、中が丸見えなんだが、その湯船の中にまで鏡が沈めてあった。
自分たちのやらかしてる行為を、どこでも自分で観察できるようになってるんだな。

なかなか面白かった。エミルが俺にフェラチオしてるのを、自分じゃない視点で見られたのは、かなり興奮できた。
もともと咥えられてる時点でもう勃ってるんだけど、エミルがそれを一生懸命口に出し入れしてるのがばっちり見えて、もうなんていうか、その頑張ってる姿が可愛くてしょうがなくてな。
だもんで、前回はそこまで行かなかったのに、ついつい彼女の口の中に出しちゃって、それをまたエミルが頑張って飲んでくれて。
こうなるとこっちも盛り上がって、エミルのあそこを舐めまくって、とうとうそれだけでいかせちゃったりとかな。

そう、エミルがついに、いっちゃったんだよ。
これまでは、彼女もそこそこ気持ち良くなってくれてはいたんだけど、まだそこまでだった。
でも、こすったり揉んだりしながらぺろぺろ舐めてやって、更にクリトリスを舌でちろちろつついてたら、とうとうエミルが仰け反って痙攣し、くにゃって身体が弛緩しちゃったんだ。
何があったのか当人には、良く判ってなかったみたいだけどな。

エミルをちょいと休ませてから、いよいよ本番だ。
鏡のおかげで、エミルと繋がってる様子は客観的にどう見えるのか良く判った。
傍からだと、ほとんど犯罪だ。こんな小さな女の子にずっぽり入れちゃってるんだぞ。
でもちゃんとエミルは感じてくれてて、涙目だけど気持ちよさそうに喘いでて。
俺もすっかり興奮して、また大量に彼女の中に注ぎ込んじまった。

そんなこんなで濃厚にエミルを可愛がってやった。なんせ10日分だぜ。
そして、すっかり満足した俺は彼女の肩を優しく抱き、一緒にホテルを出る。
「・・・っ!?」
足が止まった。
なんで・・・そこにサリィがいる?
エミルもサリィに気付いた様で、俺にしがみついてた手に、ぎゅっと力がこもった。

サリィは無表情に俺たちを見た後、くるっと振り返る。
「お、おい・・・」
返答はない。そのまま彼女は立ち去って行った。
こりゃあ・・・ちょっとまずいか・・・?


夜遅く、ドアチャイムが鳴らされた。
ビューアーで確認すると、サリィだった。こっちからの連絡は一切通じなかったので、どうなるかと思ったが、当日に来たか。
ドアを開ける。サリィの表情は硬いを通り越して冷静で冷たく見えた。
冗談を言える雰囲気じゃない。そして彼女も何も言わなかった。

居間でサリィは、テントにちらっと眼をやった。エミルはもちろん隠れてて姿は見せていない。
ただ、鎖がテントの中に入ってるので、知っている目でならそこにいるのは丸わかりだ。
鎖のロックを解除しておけば良かったと、今更ながら後悔する。
もしサリィがエミルに危害を加えようとした場合、鎖の長さ分しか逃げられないエミルには成すすべが無い。
せいぜいバスルームに立て篭もれるくらいで、でも鎖が邪魔だから扉も閉められない。

しかしサリィは居間では立ち止まらず、黙って寝室に向かった。俺も後からついていく。
寝室で、サリィはベッドに腰掛け、ハンドバッグを両手で軽く握りながら、俺の目を見ずに言った。
「だから、ここが匂わないって言ったのね」
「・・・まあな」
何がどう「だから」なのかは判ったので、俺は最低限の返答をした。
そして、サリィのすぐそばではなく、少しだけ間を開けた隣に座る。

「どうして犬を処分してくれなかったの」
またサリィが言った。不思議で仕方ないという口調ではない。淡々と言っている。
「できない理由は再三言った」
友人の遺品だから。
それはもはや、本質から外れつつある理由だけどな。
もう俺自身が、エミルを処分してしまう事など、考えられなくなっている。
今の俺にとって、それは殺人と変わらない。法律的にはそうじゃなかろうとも。

サリィの次の質問は何だ?
処分できないからって、寝る必要はない、あたりか?
それは確かにもっともだ。俺にはサリィという恋人がいるんだから。
それでも最初は、ラブドールと大差ない扱いだったから、別に裏切りとまでは言えなかった。
恋人がいるからって、マスかいちゃいかんって事は無かろう? それすら許せない女もいるらしいが。

でも、だんだん・・・俺はエミルを、本物の女みたいに扱いだしていた。
ちゃんと、1人の女として可愛がり、まるで人間の女みたいに、愛し始めていた。
サリィから、裏切りだと責められても仕方ない部分だ。言い訳もできない。
そこを問い詰められた時、どう答えればいいのか、俺はまだ答えを持っていなかった。

それでも、強いて言うなら。
どうしても両立できないのなら、俺はエミルを選ぶ。

サリィはちゃんと自立した美しい女性だ。俺でなくても付き合う相手に事欠くまい。
でもエミルは違う。彼女は弱いんだ。
保護欲を掻きたてるからとか、自分の言いなりになる方がいいとか、そんな下世話な話じゃないぞ。
エミルは守る者が居なければ、あっという間に存在を消されかねない。そういう弱さなんだ。
でも俺は、エミルを消されたくない。この愛すべき娘が死なねばならない理由などなかろう?
だけど現状、エミルを確実に守るには、俺の庇護下に置くしかない。
それをサリィが許さないのなら、サリィをあきらめるしかないんだよ。

「結局・・・」
サリィがぼそっと言った。
「ん?」
「またケダモノに取られるのね」
「・・・また?」
サリィが視線をこっちに向ける。
「前の奴もそうだった。あたしと犬とどっちを取るのって言ったのに・・・犬を見捨てられないって」
「前って・・・」
サリィがゆっくりベッドから立ち上がった。
「じゃあ犬がいなきゃいいのね、と思って犬を消したのに、あいつ・・・」
「・・・おい?」
何を言ってるんだ? そして何だか不穏当な事言ってないか?

「あんたもなの? なんでせっかく見つけた有望な男を、たかが犬に奪われなくちゃいけないの?」
「奪うとかそういう話じゃないだろ」
少なくとも俺は、エミルがいるからお前はいらない、なんて言い草をした事はないぞ?
「もういい・・・あんたなんか、いらない」
何だよ、聞いちゃいねえのか。お前からいらないって言うのかよ・・・って、お、おい!?

サリィがハンドバッグに手を突っ込むと、バッグが中から裂けた。
ナイフみたいな物が出てくる。それほど大きくは無いが、俺はそれに驚愕した。
どこでそんな物を調達した!?
「あんたなんか、死んじゃえ」
無造作に振り下ろしてくる。それを俺は必死で避けた。
サリィは下ろす途中で、ナイフもどきの軌道を変え、横殴りに叩きつけてくる。
「ぐあっ」
左腕の上腕部に衝撃を受けた。そのまま俺は床にへたり込む。
右手で傷を押さえた。指の間から血が垂れる。大して痛くないけど、それは軽症だからじゃない。
左腕に、ほとんど感覚がなくなっていた。

「ふふ、いい格好」
腰が抜けたように床に座り込んだままの俺を見下ろしながら、サリィが嘲笑する。
しかし実際問題、俺は既に戦意を喪失していた。

サリィが構えているのは高周波ブレードだ。一般人は普通持っていない。使うのに危険物取り扱い免許がいるからだ。
だって、大抵の物なら何でも切り裂けちまうんだよ、あのナイフもどきは。
そこらの刃物より、ずっとたちが悪い。

サリィのブレードを持つ手つきはあぶなっかしい。彼女も所詮は素人だからな。
でもブレードの切れ味には、持ち主の技量は関係ない。当たれば終わりだ。
そしてあいにく、俺には護身術の心得は無い。凶器を持った相手に対処する方法なんか知らないんだ。
「やめろ・・・サリィ」
「うるさい!」
ブレードを構え、俺に向かって振りかざしながらサリィは言った。
やっぱりエミルの鎖を外しておくべきだった。俺が死んだら次は確実に彼女の番だ。
すまん、エミル。
せめて・・・一緒に死んでやれる事で、許してくれ。

ばんっ!
寝室の扉が勢いよく開き、次の瞬間、白っぽい塊がサリィにぶつかる。
「あぐっ」
サリィがよろけ、塊のほうは俺とサリィの間に立ちはだかる。

エミルだ。
え、なんで。何故ここに来れる?
「がうううううううう」
エミルが精一杯の威嚇を、サリィに向かってする。
でも全然迫力が無い上に、身体も震えている。
「なっ・・・こ、この犬畜生がっ!」
しゃっ!
「きゃうっ」
ブレードが一閃し、エミルの髪の毛と服の一部の破片が散った。
致命傷にならなかったのは、エミルがサリィの手を狙ったからだ。それで攻撃がずれた。

「このっ!」
「あうんっ」
「くたばれっ!」
「きゃいんっ」
サリィが何度もブレードを振り回し、それをどうにかエミルが抑えこもうとしておる。
でも、うまくいかない。サリィもエミルの狙いを察知し、武器を奪われない様に慎重になってる。
その分サリィは攻撃が甘くなってるが、それでもエミルの方は無傷といかない。
こちらからだと背中しか見えないが、確実にエミルは傷を負っているようだ。

突然気が付いた。エミルは首輪をしていない。
そうか、だからこの部屋まで来れたんだ。鎖は首輪に付いてたんだから。
でもどうやって・・・どうもくそもない。
エミルの首輪は犬や猫に使うのと大差ない構造だ。鍵なんかついてない。俺も何度も普通に外してる。
つまりエミルにだって、その気になったら外せない訳がない。それにたった今気が付いた。

そして突然判った。エミルはいつもいい匂いがしていた。
もしそれが体臭だとしても、着たきり雀で身体を洗いもしなかったら、いつまでもいい匂いって訳にはいかんだろう。
つまりエミルは俺が留守の間、定期的に首輪を外し、服を洗い、自分の身体も清潔にしてたんだ。
そして・・・それ以上は踏み出さなかった。他の部屋に勝手に入ったりはしなかった。
行こうと思えば、行けたのに。俺の決めたルールを守ってくれてたんだ。
そして。ペットの獣人は人間に危害を加えない様にしつけされる。
だけど。いざ俺が危ないとなったら、エミルは迷わず2つとも破った。俺のために!

「うざいよっ!」
「ぎゃうんっ!!」
「あっ」
俺は思わず声を上げた。エミルの右腕が半ばまで切り裂かれたんだ。それこそ、千切れそうなほどに。

「エミル・・・っ!」
俺は立ち上がろうとする。
何やってるんだ! あの小さくて華奢なエミルですら、ここまでがんばって抵抗してるのに!
腕一本駄目にされたくらいで、何びびって、腑抜けてるんだ!

だが次の瞬間。
「ふぎゅっ!」
エミルが腹を突かれてしまった。勝利の笑みを浮かべるサリィは、突然焦る。
腹を突かれたエミルが、まだ使える左腕でブレードを相手の腕ごと抱え込んだ。
「こ、この、はなせ!」
「きゅ、うぎゅ、あうん」
エミルが身体を丸め、自分に刺さったブレードを、そのまま相手から奪おうとする。
それは普通のナイフなら、成功したかもしれない。

ざしゅっ!
恐ろしい切れ味を誇る高周波ブレードは、エミルの身体をあっけなく切り裂き、拘束をあっさり振り払った。
どしゃっ!
床に転がるエミル。その周囲に洒落にならない量の真っ赤な血が撒き散らされる。
「ははは、ざまあみろっ!」
勝ち誇るサリィ。
「エミルに」
「え?」
「何しやがるっ!」
俺は我を忘れて絶叫した。何かが砕け、潰れる感触がして、サリィが吹っ飛ばされる。

・・・あれ?

俺の右拳の直撃を顎に喰らったサリィが、壁に叩きつけられていた。
下顎が変な位置にずれ、白目を剥いて、ぴくぴく痙攣している。
でも俺、いつ殴り掛かったんだ?
考えるより先に身体が動いていた。ブレードを避けた覚えすらない。

サリィの手から落ちた高周波ブレードが床に転がり、作動音が止まる。
こういうのは安全装置がついてて、握ってないと動かないんだ。
いや、そんな事はどうでもいい。
「エミルっ!」
床に倒れてたエミルが、俺を見上げた。顔も切り裂かれ、片目が完全に潰れている。
「・・・きゃう・・・」
俺の無事を知ると、少し嬉しそうに鳴いて・・・
かくん、と頭が垂れる。

「あ、あ・・・エミル・・・」
馬鹿野郎! 狼狽してる場合じゃねえ。病院に運ぶんだ、まだ終わりと決まっちゃいねえぞ!
あ、でも左手が使えない。これじゃ抱きかかえて連れて行く訳にはいかん。
じゃあ向こうから・・・駄目だ、獣人のためには救急隊は動いてくれん。
騙して呼び寄せても、エミルを見た瞬間に引き返されるのがオチだ。温情に賭けるのは分が悪すぎる。
じゃあどうする。誰なら確実に来てくれる。時間がないぞ、さあどうするんだ!

 * * *

「まあ、正解だったんじゃないか?」
知り合いの医者のカイザが扉を開けて、部屋に入ってくる。
俺はベッドで横になって、左腕の傷を看護婦の一人に弄られていた。
「い、いたたたた」
「お、一応繋がったのか。後は縫っとくから、ちょっと安静にしてろ」
そう言った後、カイザが看護婦に専門用語交じりで短く指示をする。
それからまた俺に向き直ると、肩をすくめた。
「確かに俺なら、獣人が大怪我してる、助けてくれってお前に言われたら確実に動くもんな。妥当な判断だ」
「感謝してるよ。それで・・・エミルはどうなんだ?」
「どうにか、命だけは助かるかもな」
「・・・だけ、は?」
「お前も見ただろ。目茶目茶だったからな」

ああ、見たとも。
エミルは片腕が千切れかけ、片目を失い、胸や腹を深く切り裂かれ、内臓をぶちまけてた。
あの場で死ななかったのが不思議なほど、酷い有様だった。

ここで、看護婦が処置を終え、部屋を出ていく。
俺はベッドから身体を起こした。
透明な窓越しに、隣室のベッドに寝かされてるエミルが見える。
と言っても酸素テントの中で、包帯ぐるぐる巻きになって、チューブだらけだ。
見えるのは無事だった片目くらいで、それも今は閉じられてる。
くそっ・・・抉られた左腕なんかより、胸の方がずっと痛い。

カイザが言った。
「下腹部なんかズタズタだ。助かっても、ただ生きてるだけって状況になるかもしれん」
「・・・どうにかならんのか」
「手はなくもない」
「助ける方法が!?」
「お前ら宇宙事業関係者がたまに使ってる、再生槽を使うんだ」
「あれか!」
「そう。あれならどうにかなる」
確かにエミルの受けたのは、純粋な肉体損壊だ。再生槽向きではある。しかし。

「だが、獣人に使えるのか?」
「前例は無いけど、勝算は充分ある。元々獣人は人間と遺伝子的に極めて近い。そして俺なら差分を調整するデータも作れる」
「そうか・・・それなら・・・」
「最大の問題は、費用だ」
「・・・費用?」
「宇宙事業とは関係ないし、それどころか人間ですらない相手に使うんだ。どこからも補助は出ない。目の玉飛び出るくらい高くつくぜ?」
「だが・・・それでエミルは治るんだな・・・?」
「他の奴ならともかく、俺がやるならな。伊達や酔狂で獣人の研究はしてない」
「そして・・・頼んだら、お前は・・・それができるんだな?」
「できる。つてはあるから、費用さえ出せるなら確実に再生漕を借りられる」
「なら・・・頼む、やってくれ」
「しかし身代潰すくらい、金がかかるぞ。本当にいいのか?」

だってエミルは、金なんかじゃ買えない事をしてくれた。
いいや、エミル自身が金なんかじゃ買えない。
あいつ自身が何とも置き換えのきかない、唯一無二の貴重な存在だ。

ならば金なんて、惜しくはない。
フレッドに支払われた補償金は、こういう時こそ使うべきだ。
あれじゃ全然足りないから、俺の貯金も使う必要がある。
多分それでも足りないから、それならマンションも売り払おう。別にいいさ、そんなの失っても。
今回は、エミルのための写真立てや絵描きの玩具は、ちゃんと持って出られるだろうから。
それで足りなかったら、組合から借りるしかないか。そして馬車馬みたいに働くさ。

「いいよ・・・それであいつが・・・元通りになるんなら」
俺は穏やかな声で答えた。
「いい覚悟だ。ならやってやろう、腕によりをかけて治してやるよ」
「頼む」

ここで、治療中のエミルがいるのとは別の部屋から、さっきと別の看護婦が顔を覗かせる。
「先生、警察の方から経緯の報告をと」
「3Bにまとめといたろ。あれ送信しといてくれ」
「判りました」
ぱたん。看護婦が顔を引っ込め、扉が閉じる。

俺が怪訝な顔で聞いた。
「警察?」
「・・・あのな。忘れてるみたいだが、お前が殴って気絶させた女いたろ?」
「サリィか」
「お前とエミルを運んだ後、こっちで色々処理したんだよ。ところで彼女とどこで知り合ったんだ?」
「ええと・・・前に仕事した所で、紹介されて・・・」
「ここに一度連れてきてたら警告してやれたんだが。あいつ殺しの前科あるぜ」
「え?!」
「といっても器物破損になるんだけどな。前に付き合ってた男のペットの獣人を毒殺したんだよ」
「・・・それで・・・」
何かそれっぽい事言ってたな。

「男に告発されて裁判になったけど、結局男の方が精神的にもたなくて、有耶無耶の示談になった」
「もたないって、どういう状態だよ」
「よほど大事なペットだったんだろう。心を病んじまったんだ」
「ああ・・・」
「あの女は、生活環境のせいらしいが、独占欲が強くてな。獣人がどうこう以前に、相手がペットを飼ってる事自体が嫌いらしい。獣人相手だとそれがもっと暴走するんだな」
「独占って・・・なんでそれで、そこまで」
確かに俺はエミルを抱いてたが、どっちかというとそれは例外で、普通はペットくらい独占の邪魔にならんよな?

「彼女は男の生活を丸ごと手に入れたいんだよ。だから夾雑物は排除するんだ」
「別に・・・そんな事に拘らなきゃ、あの容姿なら引く手あまただろうに」
「だからこそ逆に要求がエスカレートしたのかもしれん。真相はさすがに判らんけどな」
「今回はどうなるんだろう」
「高周波ブレードを持ち込んだんで、相当に心証が悪い。殺意がなきゃあんなの使わない。当分出てこれんだろ」
「そうか・・・」
サリィの事も、決して嫌いじゃなかったんだがな。エミルにあんな事をしたのは許せないが。

そのエミルは今も意識不明だし、再生槽に漬け込む時は積極的に意識を失ったままにするそうだ。
だから最後に酸素テント越しに顔を眺めてから、俺は自宅に戻った。
現場検証は終わっていて、寝室はそれなりに片付いてはいた。
居間の方は、テントもクッションも鎖もそのままだった。だって今回の事件にこれは直接絡んでないからな。

カイザは優秀だ。あいつが言うんなら、エミルは治るんだろう。
でもしばらく、あいつの見積もりだと5週間くらいは、ここにあの子が戻ってくることはない。
・・・仕事でもするか。
ずっとここで座り込んでたら滅入っちまいそうだし、どうやら頑張って金を稼がないといかんみたいだからな。


そして、5週間後。
病院で、俺の顔を見たカイザが笑った。
「いいタイミングだ」
「そうなのか?」
「今朝方エミルちゃんを再生槽から出して、ここに連れてきてる。今は確認の検査中だ」
「と言われても、仕事に大急ぎで決着付けてきたんだが?」
「あ、そうか。この日付を言ったのは俺だったな。それで、もちろん会っていくんだろ?」
「当然だ」

そして俺たちは、エミルが収容されてる病室に向かう。途中で俺が聞いた。
「容体は?」
「完治さ。傷一つないし、何の障害も起こしてない。さすが俺だ」
「良かった・・・ありがとう」
「あのな、ちっとは突っ込めよ。張り合いないな」
「いや・・・今回はもう、お前に素直に感謝しかできん・・・」
「やれやれ、お前らしくも無い。そこまであの子にべた惚れかよ。ほら、あそこだ」

色々と検査用の装置が置かれた大き目の病室に、エミルがいた。
下だけパジャマを着てベッドに腰掛け、裸の上半身を看護婦が布みたいなので拭いている。
ちなみに後で聞いたが、超音波センサーを当てるために塗ったジェルを拭いてたんだそうだ。

エミルの顔が俺を見た。
華の蕾が弾けるように、ぱあっと笑顔を浮かべ、ベッドをぴょんと飛び降りた。
迷いなく俺に向かって駆けてくる。
「まさきぃーっ!」
可愛らしい声でそう叫んで飛びついてきた。俺も笑顔で抱き留めて・・・え?
「まさきぃ、まさきぃ」
「・・・エミル・・・喋って・・・?」
嬉しくて仕方ないという風に、俺の名を呼んで甘えるエミルを抱きかかえたまま、俺はぽかんと隣のカイザを見た。

「なんだと?」
カイザが俺に負けず劣らずぽかんと、こっちを見ている。
「なんだと、じゃねえだろ。どういう事だよこれは!」
「まさき?」
少し戸惑った声を上げたエミルに、俺は慌てて向き直る。
「あ、違う、エミルに怒ってるんじゃないから。大丈夫、お前は心配しなくていいからな」
「うん」
頭を撫でられ、エミルが嬉しそうに笑う。
俺は、そんなエミルにおずおずと聞いてみた。
「あのな、エミル・・・喋れるんだな?」
「ん? うん。しゃべれる」
「・・・でも、前は・・・喋れなかったよな?」
「うん、しゃべれなかった」
「どうして、喋れるようになったんだ?」
「どうしてだろ」

俺はもう一度カイザの方を向いた。
「で?」
「・・・ええと・・・きちんと検査していいか?」
「痛い事するんじゃないだろうな?」
「ないないない。でも、とりあえずお前からその子に頼んでくれ」
「・・・じゃあ、まあ、いいか。あのなエミル、このお兄さんがお前をまた調べたいって言ってるんだ。付き合ってくれるか?」
「うん」

カイザの検査はそんなに時間はかからなかった。
終わった後、俺達は診察室でソファに座っていた。いや、エミルは俺が胸に抱きかかえてたけど。
というか、エミルの方がぎゅうっと俺にしがみつきっぱなしだ。相変わらずいい匂いだぜ。
前から甘える時はこんな感じだったな。あ、今は上もパジャマを着てるぞ。

机の前に座ったカイザが、右手のモニタを指さす。
「見ての通り、その子は器質的には異常は起きてない」
「見てわかるか、そんなの」
ずらっと並んだ文字とアイコンを眺め、俺は言った。
「まあ、とにかく異常はない。ただ、変化はあった」
「そりゃあ、前は喋れなかったのが、今は喋れてるんだから」
「そういう現象面じゃなくてだ。具体的に言うと遺伝子量が減ってる」
「・・・減ってる? 増えてる、じゃなくて?」
できない事ができるようになったのに、減ってる、だと?

カイザが少し考えてから、言った。
「まず、ちょっとした前置きを言わせてくれ」
「ああ」
またエミルの頭を撫でながら俺は答える。エミルが嬉しそうに顔を俺の胸に擦り付けた。
ああ、畜生可愛いなあ。
先日の事件以来、もう俺は我慢するのはやめた。この子は可愛い、それを全て認める。
顔かたちがどうこうじゃなくて、存在丸ごとが可愛いくてたまらない。
もしあの事件の結果で、顔にえげつない傷が残ったままだったとしても、その傷すら愛しかったろう。
人間かどうかなんてのは、もうどうでもいい。そんなのただのオマケだ。
だから、エミルのためなら俺は多分なんでもするぞ。
実際、今回はそういう覚悟で再生槽を使ってもらったんだしな。

俺は前に、この子を強姦しちまった。
それ自体は今となっては辛い記憶だし、後悔もしているが、無かった事にはしたくない。
だってそんな経緯があったからこそ、俺はエミルをこうやって受け入れる事になったんだから。

カイザが、俺の抱いているエミルを指さして言った。
「元々、獣人にはいくつか不可解な部分があるんだ」
「不可解って言うと?」
「なんでそうなってるのか判らない部分さ」
「耳がここに余分に生えてる事とかか?」
「あうんっ」
俺に獣耳をつままれ、エミルが身体をくねらせる。
割と最近知ったけど、彼女はここ、結構敏感なんだよな。

「それは不可解じゃない。遺伝的にそこにそういうものが生えるようになってるだけだ」
「じゃあ、どこが?」
「この際、一番わかり易い例で言えば、何故喋れないのかが判らない」
「はあ?」
「口腔の構造は人間とそんなに違わない。声帯もある。知能もあるし、言語中枢も存在する。なのに喋れない」
「だ、だが」
「書き文字なら覚えるんだ。それなのに話し言葉は教えても喋れない。その理由がこれまで判らなかった」
「だが、今エミルは・・・」
「そう。何も変わらないのに喋れるようになった。ヒントは、減った遺伝子量だ」

俺はぶすっとした顔で言った。
「悪いが俺には、それはヒントにならんぞ」
「まあ、これはクイズじゃないしね。いいよ、結論を言おう」
「先にそうしてくれ」
「何者かが・・・といっても多分個人じゃないし、最近の話でもないんだろうけど・・・獣人に封印をしたんだ」
「封印?」
「生物学的に、身体や脳の機能にロックをかけた。だからその能力は本来あるのに、喋れなくなっていた」
「じゃあ、エミルは?」
「その子は遺伝子量が減ってるって言ったろ? その減った分が封印だったのさ」
「・・・つまり、それは要らない部分だったって事か?」
「まあ、そうとも言える。いわばゴミだね」
「それがなんで消えた?」
「状況証拠から考えると、再生槽の影響だろう。身体を作り直す過程で色々リセットされるんだけど、その時にゴミ遺伝子が外れちゃったのさ」
「なるほど・・・」
俺がエミルをじっと見ると、エミルはきょとんとした顔でこっちを見返す。良く判ってないな、こいつ。

カイザがため息交じりに行った。
「ずっと昔、獣人は何者かに、おそらくウイルスみたいな手段で、機能制限する遺伝子を仕込まれたんだ。体細胞だけじゃなく生殖細胞にもね」
「なんだってそんな事を」
「そこまでは知らないよ。大昔に獣人と何者か、例えば人間とが戦争でもしたんじゃないか? で、こういう兵器を使われたのかもしれん」
「それがいまだに残ってるって事か?」
「そうだよ。歴史には残ってなくても、遺伝子の方はずっと残ったんだ」
「じゃあ・・・もし他の獣人を、再生槽に入れたら・・・そいつも喋れるようになるのか?」
「それは断言できん。そして獣人の為に大枚はたいて再生漕を使おうなんて酔狂な奴はこれまでいなかったし、今後もそうそう居ないだろうからテストのしようもないな」
「・・・まあ、そうだろうな」
「ああ、それで思い出した。ほら、請求書だ」
カイザが机の上から一枚のカードを拾い、俺に差し出す。

「・・・なんだ、この金額は」
「目茶目茶掛かるって言ったろ? 見ての通り、くそ高いぞ」
「だが・・・これは・・・」
「払えるかい?」
「なんで・・・これだけなんだ?」
確かに高い。だが俺たちが業務上の事故の結果、再生漕を使う羽目になった時に払う金額の数倍もない。
もっと恐ろしい、とてつもない額を覚悟してたんだが。

「普通よりは高いと思うぞ」
「だが・・・だが、なんで・・・これだけなんだ?」
「さっきも言った様に、獣人に再生漕を使わせる酔狂な奴なんて、これまでいなかったんだよ」
「それはまあ、そうだろうな」
「なら今回のこれは、めったに無い貴重なテストケースだ。そういう触れ込みであちこち根回しして、研究費って名目で予算をどうにかむしり取ってきたんだ」
「・・・」
「さすがに無料にはできなかったので、それなりの額はきっちり払ってもらう。実際その金額、払えって言われたら俺は結構嫌だな」
「・・・・ありがとう・・・」
俺は素直に頭を下げる。エミルも良く判らないまま、俺と一緒に頭を下げた。

「あと、言っとくけど今回だけだぞ。同じ手はもう使えない」
「ああ。でも再生槽を使うような事が、そうそうあったらその方が困る」
「そりゃそうだ。それとね、今回のケースは研究会で発表するよ。世間一般では大した反響はないだろうけど」
「発表?」
「だって、実は獣人は生物的な封印が科せられていたらしいって、結構なトピックだからな」
「そういうものなのか?」
「ああ。結構大きなネタだよ。雄が滅びたのもその辺が原因かもしれない。それに、新たな課題もある」
「課題って?」
「今回のは副作用みたいなもんだ。再生槽みたいな大げさな手段を使わずに封印を解く方法は無いかって話は当然出るだろう」
「ああ、なるほど」
「獣人と会話できるなら、その方が色々都合はいいからね。たぶん獣人にも」
「そうだな・・・」
俺はまた、エミルを見る。
いまいち俺たちの会話にはついて行けてない様だが、それは仕方ないだろう。
そこらの子供を議論に混ぜてるのと変わらないからな。

「エミル、俺とそのまま話せるの、嬉しいかい?」
「うん。うれしい」
エミルが笑顔でうなずく。
そうか、なら、いいよな。

「さてと。また検査に来てもらうかもしれないけど・・・今日、その子をもう連れて帰るかい?」
「いいのか? 身体は大丈夫なのか?」
「完治って言ったろう。完全な健康体だ。これからフルマラソンでも走れ・・・いや、それは体格的に無理か」
「なら・・・ああ、連れて帰りたい。その方向で頼む」

さすがにあのワンピースは駄目になってるので、エミル用の新しい服を買った。
首輪と鎖もないと外に出せないので、それも買ってくる。
そして俺はエミルの手を引き、病院を出た。
タクシーを止めて、それで俺のマンションに向かう。

マンションの中は一応問題がない所まで片付けてある。寝室は完全に掃除してあった。
でも、居間のクッションとテントはわざと残してある。思い出の品さ。
俺はエミルの手を引き、居間に入る。そこで手を離し、彼女に向かい合うと、言った。
「おかえり、エミル」
「・・・うん、ただいま」
そう答えたエミルの頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに目を細める。
俺はしゃがみこんで、彼女の肩を手で握り、顔の高さを合わせる。
「そして・・・これからもよろしくな、エミル」
「うん・・・!?」
俺はエミルを抱き寄せ、キスをした。

「ん・・・うん・・・」
唇を合わせたまま、エミルは喉声をあげ、そしてうっとりと目を閉じる。
たっぷりキスをしてから、俺はやっと唇を離した。
「ましゃきぃ・・・」
キスだけなのに感じちゃったんだろうか。エミルの頬が赤くて、息も荒い。
俺は彼女を抱え上げ、寝室に入った。

さて、エミルが喋れる様になったのは、それはそれでめでたい事だけど。
可愛い声で俺の名を呼んで、返事をしてくれるのは堪らなく愛しいんだけど。
あの鳴き声も、それはそれで可愛かったんで、あれが聞けなくなったのはちょっと残念だなーとか思ったんだ。

「きゃうんっ・・・きゃうぅ・・・」
ベッドの上で股を開かれ、性器の中を舌で探られ、エミルが悶えながら可愛らしく鳴く。
別に声が全部喋りに替わったとかじゃなかった。ただ、喋れるようになっただけで。
興奮しちゃうと、つい犬みたいな声になっちゃうんだな。

エミルの、とろとろに濡れているそこを、俺は何度も何度も舐め上げ、舌でつつく。
「あうんっ・・・あうんっ・・・」
可愛い喘ぎ声。こういう声だと喋りなのか鳴き声なのか良く判らない。
まあ人間だって嬌声は鳴き声みたいなもんだしなあ。

いきそうになってるエミルを抱え直し、後ろから抱いて乳を探ってやる。
「きゃう・・・あうん・・・あう、あうん」
身体をよじらせ、切ない声を上げ続けるエミル。ふふふ、いい反応だ。
もっと身体中、丹念に可愛がってやるからな。もっともっと、その可愛い声を聞かせてくれ。

しこたま愛撫を繰り返し、ぐったりしてしまったエミルの太腿を掴む。
ぐっと広げ、愛液を溢れさせている性器の中心に俺のペニスをあてがうと、滑り込ませる。
・・・あれ?
「ひゃうんっ・・・!」
びくびくっとエミルが震え、そして俺は、ぷつんっとかすかな感触を感じた。
ちょっと驚く。処女膜まで再生されてたのか・・・

「きゃうっ・・・きゃうっ・・・」
俺が中に押し込むと、少し苦しそうにエミルが声を上げる。股間は久々に血だらけだ。
再生槽に入って、慣れた分もリセットされたりしたんだろうか。
「大丈夫か? 苦しくないか?」
「きゅん・・・・だ・・・だいじょう・・ぶ・・・」
「続けてもいいのか?」
「いい・・・まさき・・・もっと・・・いれて・・・」
ああ。可愛い鳴き声もいいけど、名前を呼んで貰えるのはやっぱり、何より幸せだ。

俺は、更にエミルの中に入っていく。
「きゃうぅ・・・きゅうぅ・・・あうん・・・」
まだ苦しそうだけど、でも、とても気持ちよさそうなエミル。
彼女の一番奥まで届き、そのまま俺は腰を動かし続ける。
「きゅうっ・・・きゅうん・・・」
「エミル・・・いっぱい・・・いっぱい種付け・・・してやるからな・・・」
もう俺の方が辛抱できない。こんな可愛い子に可愛い声でねだられて、我慢できる奴がいるもんかい。
「う・・・ん・・・まさき・・・たねつけ・・・してえ・・・」
「エ・・・ミル・・・っ!」
「あ、あうんっ・・・あー・・・」
俺は彼女の膣内に、精液をありったけ、注ぎ込んでいく。
いつもよりずっと早く達してしまった気がするな。
久しぶりでもあったけど、やっぱり名前を呼ばれる威力って凄いぜ。


カイザが治療費を桁外れに安くあげてくれたのは助かった。
フレッドの補償金に俺の貯金のいくらかを足しただけで支払いは終わり、マンションを売り払わずに済んだ。
ただ、それならもうちょっと早く教えて欲しかったな。余分な仕事、しこたま入れちまったよ。

「おしごと?」
居間で荷造りする俺に、エミルが聞く。首輪はしてるけど、部屋の中なので鎖はつけてない。
別に首輪もいらない気がするが、エミルは首輪をつけてるのが好きらしいから、まあいいや。
ちなみにテントもクッションも元の位置に置いたままだ。エミルがまだ使いたがるんでね。

「ああ、約束が入っててな。これだけは済まさないといかん」
金を稼ぐ必要があるからと、色々受けた仕事の最後の1つだ。
これだけ開始日が結構離れてて、これから出張になるんだ。
「わかった。おしごと、いってらっしゃい」
「出発は明日だよ。今日はまだエミルと遊べる」
「わーい、うふふ」
「それで、この仕事が済んだら・・・まあ10日もかからないが・・・そうだな、半年くらい休みを取るよ。どっか旅行でも行こうか」
「うん、まってるね」
ちなみに遊ぶといっても、エミルと生殖行為的な事をするって意味じゃない。
いや、多分夜になったらそれもするだろうけど、今この場で言ってるのは普通の意味での遊びだ。
新しい絵本を買ってやったんで、それをエミルに読んでやる。
それとエミルのお絵かきに付き合うんだ。実は彼女、絵を描くのも好きって判ってね。

旅行か・・・どこがいいかな。
どこでもいいかもしれないな、エミルと一緒なら。

しかし翌日、俺は晴れ晴れとした気分から、一気に陰鬱な気分に落ち込む。
あいつだよ、今回の仕事の同行メンバーの一人は。あの応用のできない、使えない奴。
ううむ。何かついてないな。
でもまあこの仕事は、廃棄された小惑星から機材を回収するだけで、たいした難易度じゃない。
とっとと済ませてエミルの所に帰ろう。

 * * *

「航路プラン、応答来ました。300秒先まで暫定許可を受けています」
コパイ席のマークが報告する。まあこっちからも同じ内容は見えてるが。
俺は船の軌道を維持する。
「暫定許可確認。進路250B、クリア。直進を続ける」
「了解、進路250B。それから、プランへの問い合わせが来ています。通常交信です」
「こっちに回せ」
「はい」
目の前の小さなモニターに、人影が映った。
『確認する。事故があって帰還が遅れたとの事だが?』
「はい。本来でしたら出航後20日以内に帰還する予定でしたが、ケースCに遭遇しました」
『ケースCか。それは災難だったな』
「そういう訳で、修正した帰還用の航路プランを申請しました。よろしければ受理願います」
『ああ、いま確認・・・・・・な・・・・んだと・・・・?・・・こ、このレポートは真実か!?』
「真実です。クルー全員が証人です。だいたい、こういう書類で偽証したら免許剥奪されますからね」
『これは・・・よく・・・戻ってこれたな・・・』
「ま、そういう事なんで、早く着陸態勢に入りたいんです。詳細報告は地上でいくらでもやりますから」
『判った! プラン全てを受理する。航路は100秒以内に開けるから、そのまま着陸準備に入ってくれ』
「感謝します」

モニターの顔が消えた。
マークがコパイ席でくっくっと笑った。
「驚いてましたね」
「同じ立場なら俺だって驚くわ。別の宇宙に行って帰って来ました、なんて言われたらな」
「地上に着いたら大騒ぎになりますよ」
「だろうなあ。できればとっとと家に戻りたいんだが」
長くて20日の予定だったのに、3ヶ月も掛かっちまったからな。
エミルもさぞ寂しがってるだろう。

「しばらく解放してもらえないのでは?」
「ありそうだな。この際だからお前があれこれした事にしないか? 手柄も全部やるよ」
「冗談はやめてください。先輩がいなかったら、たぶん誰も帰れませんでしたよ」
マークが真顔で言う。いや結構本気だったんだが。

「着陸は問題なくできそうか?」
背後から船長が聞いてきた。
「操舵系を改造しちまったんで、通常航行は操船につきっきりになりますが、それ以外は問題はありません」
俺は振り返る。室内のクルーたちは期待と不安の混じった顔をしていた。
まだいまいち実感も湧かないのかもな。やっと帰ってこれた事に。

あの問題の小惑星の中身に、大昔に何者かの作った罠が仕掛けられていた。
何かの発動条件を満たしたんだろう、俺たちの船は突然見知らぬ場所に飛ばされた。
そこは物質がどこにもない、青い光に満ちた宇宙で、核力のバランスが既知のものとまったく異なっていた。
本来なら船は飛ばされた時点で消滅したはずなのだろう。あの偽装小惑星の狙いも、その辺だと思う。
だけど昔作られた兵器に、現代の技術が必ずしも対抗できないわけじゃない。
本来ならワープ母船に牽引される時に使う為の、異常な空間から船体を守る空間防御幕のおかげで、船は無事だった。

何もかも勝手の違うその世界の法則性を割り出すのに一週間を費やした。
電磁力が異常に強いその世界では、反動推進はほぼ制御できず、慣性制御推進はまったく使い物にならない。
しかし発想を変え、本来なら惑星軌道上で姿勢制御に使うための磁気トルカーを主推力に転用する事を思いつき、それは見事に成功した。
そして俺達は元の世界に戻れる場所まで、えんやこらと苦労して移動した。
兵器がこっちに仕掛けた内容は解析済みだったので、それを逆転し、つい先ほどやっと元の宇宙に戻れたんだ。
操縦装置は向こうの宇宙用に改造したままだが、別に自動操縦に頼らなければ、このままでも充分地上に帰れる。

あの宇宙での長い旅で、一番変わったのはマークだろう。
何が良くて何がまずいか、教科書的な知識など一切通用しないあの宇宙で、でも生きて帰りたかったら行動するしかない。
俺がその同じ状況下で、経験から最善手を模索する様を見ていたマークは、ひょっとしたら彼の人生で初めて頭を垂れ、俺に教えを乞うた。
こっちも手数が欲しいし、出し惜しみする場面じゃない。
聞かれれば片っ端から教えたし、必要なら手取り足取り指導もした。

エミルの時と一緒だ。こんな物だと判った気でいても、実際は違うんだよ。
マークは、大抵の事はちょっと試せば習得できる様な、実に優秀な奴だった。そしてそれが災いしてたんだ。
これまで、何事もほどほど習得したら、それ以上は何もしなかった。する必要がなかったからだ。
でも一連の成り行きで、あいつは未知の領域に突入する面白さに目覚めてしまった。
もう元のあいつに戻る事はない。そして賭けてもいい、あいつは今後、もっと化ける。
ひょっとしたら歴史に残る名操縦士か、偉大な船長になるかもしれん。

さて地上では予想通り、結構な騒ぎが起きた。
別の宇宙なんて理論上の存在に、実際に行った奴・・・は居たかもしれんが、帰ってきた奴は居ないからだ。
記者会見があるとかで、クルー全員が船内で待機させられていた時、マークが俺に小声で話しかけてきた。
「妙な事が判りました」
「なんだ?」
「地上のクロノメーターと同期しようとしたんですが、標準操作だとエラーになります」
要するに船と地上の時刻を合わせようとしたら、ずれが大きすぎたという意味だ。
「・・・どのくらいずれてるんだ?」
「10か月。地上ではもう、一年以上が経過しています」
「いっ・・・一年だと!?」

俺は焦って立ち上がる。やばい。エミルの食料は数か月分しか備蓄してない。
「マーク、俺はこっそり抜ける。後は頼む」
「え、ちょ、ちょっと先輩!?」
「お前でも全部説明できるだろ。俺は速攻で家に戻らないといかん」
「そんな、駄目ですよ、だって一番の功労者は」
「どうしたんだ、マサキ君?」
焦るマークと、怪訝な口調で尋ねる船長。他のクルーも何事かとこっちを見てる。
「いいさ、なんなら冗談抜きでお前の手柄にして構わん。じゃあな! みんな、後はよろしく!」

今回の航行では、船から外に出た訳じゃないので、検疫は手順に入ってない。
俺はこそこそと顔を隠しつつ施設内を走り、裏口から出た。
外に出ると急いでタクシーを拾い、自宅に向かう。
いや、これだけ遅れたら今更焦っても大差ないんだろうが。でも理屈じゃないんだ。

玄関を開けて飛び込み、廊下を突っ走る。
「エミル!」
居間に入ると同時に叫んだ。
「まさきぃっ!」
俺が叫ぶと同時に、裸のエミルが胸に飛び込んで来た。え?
「無事だったのか!?」
「うん。まさき、すごく、まってた・・・」
「ごめんな。でもお前・・・ごはん足りなくならなかったか?」
「ごめん、まさきのごはんもたべちゃった」

ああそうか。エミルは生物的には人間と大差なかったんだっけ。
じゃあ・・・良く考えたら俺の食料も食えて当たり前じゃないか。
あれ、でもそれを入れても、一年分はないぞ? 獣人用のエサほど日持ちしないからな。

「それじゃ足りなくないか?」
「うん、なくなっちゃったから、まさきのまねして、おみせにたのんだの」
「・・・真似って・・・」
要するに俺が通販で食い物買ってるのを見てて、やり方を覚えてたのか。

「かってに、ごめんね」
「いいんだ・・・そうしないとお前、死んじゃってたからな・・・」
はああああ。
俺は安堵のため息をつく。最悪の結果すら想像してたからな。
部屋で大人しく餓死するよりは、無謀でも屋外に出てくれた方がマシだと思ったけど、それはそれでどうなったか判らん。
エミルが俺の想像以上に優秀で良かった。
ちゃんとした学習をしてなくてこれだぞ。ほんと、人間に能力は引けを取ってないんじゃないか?

その時、寝室の方から何かの鳴き声が聞こえた。
「ん?」
「あ」
エミルが少し焦って俺から離れると、ぱたぱた・・・と寝室に駆けていく。俺も後を追った。
寝室のベッドの上に・・・なんかもこもこした、毛玉っぽいものが、いくつもいるんだけど、あれ何?

エミルがそのうちの、じたばたしてた一体を胸に抱く。
でもって、相変わらずちっこい胸の乳首を、そいつに咥えさせた。
ええと・・・その・・・それって・・・ふわふわな体毛の生えた赤ん坊に見えるんだが・・・
「エミル・・・それは・・・」
「まさきのこども」
嬉しそうにエミルが言った。

うん。状況とかエミルの性格とかもろもろ考えると、それが一番蓋然性が高いとは思った。
でも獣人は人間の男相手では妊娠しないはず・・・待て。

『獣人にはいくつか不可解な部分があるんだ』
「獣人は人間と遺伝子的に極めて近い』
『その能力は本来あるのに』
『何者かが獣人に封印をした』
『再生槽の影響だろう。ゴミ遺伝子が外れちゃったのさ』

そう言う事か。
獣人は本来、人間と交配可能だけど、それも封印されてたんだ。
つまりエミルは喋れるようになっただけじゃない。
俺の子供も産めるようになったんだ。本当に、種付けできるようになったんだ。

しばらくエミルに乳をもらって、満腹になった子供を俺は抱かせてもらう。エミルは次の子に授乳を始めた。
ああ・・・ほんと、まさかだな。エミルと俺の子をこうやって抱けるなんて。

心なしか焦った感じでブザーが鳴る。胸の子をベッドに戻し、俺は玄関に出た。
ぜえぜえと息を切らせたカイザがいる。さっき連絡を入れたんだよ、子供ができてたって。
目茶目茶驚いて、すぐ行くと言ってたが、仕事はいいのかお前。
「いいんだ、ちゃんと代理は手配した。それよりお前こそ、ここに居ていいのか?」
「なんでだよ」
「特番組まれてるぞ。さっき2回目の記者会見も始まってた」
「・・・ああ、そっちか」
「お前な。人類初の並行宇宙間往復航行のメインパイロットだろ?」
「元々あっちに行ったのは事故みたいなもんだし、別にどうでもいい」
「どうでもよくないだろ。確かにそこに迷い込んだのはお前らが最初じゃないかもしれないが、生還は初だ」
「・・・ま、かなりシビアな体験ではあったがな」

最初に船長が、とにかくそのままじゃ危険だからと船を動かそうとしたんだよな。
ほとんど殴り倒しかねないレベルで制止したんだ。
あれは危なかった。あそこでちょっとでも船に余計な運動量を与えてたら、確実に帰れなかった。
まあ船長も冷静になったら納得してくれたよ。

カイザが真剣な顔で言う。
「あと、客観的に考えろ。その宇宙に商業的価値はないのか?」

客観的にか。
あの電磁波の海は確実に何かの工業的な利用用途がありそうだ。
時間の流れが3倍以上違うってのも、結構な鉱脈が潜んでそうな気がする。
そもそもあの宇宙からなら、膨大なエネルギーを楽になんぼでも引っ張り出せそうだしな。

「・・・割と・・・いや、相当にあるな」
「その宇宙と初遭遇して、生きて帰ったんだぞ。歴史書に載るレベル・・・うおう、マジだ」
寝室に入った。カイザの最後の言葉は、エミルの周りの子を見てのものだ。
「せんせい、ひさしぶり」
エミルがカイザににっこり笑いかけた。ま、恩人だからな。

そして俺は少しにやけて言う。
「可愛いだろ、俺の子供たち」
「お前も親バカ・・・いや実際可愛いな、この子ら」
「だろお?」
「あ、それでだな、さっそく近日中に調査飛行をするって発表もしてた。お前は確実に呼ばれるぞ、あれは」
「困るな。エミルを旅行に連れてく約束してるんだ。マークに任せたんだがな」
「そのマークとやらが、やたらお前の名前を出してるんだよ」
「なんだそりゃ。自分の手柄にしろって言ったのに。あいつも欲がないなあ」

カイザが真剣な顔で言った。
「悪い事は言わん。その仕事を受けて、名声を確実にしろ。お前は押しも押されぬ有名人になる必要がある」
「なんでだよ」
「まず、エミルが妊娠したのはお前の推測でいいと思う。獣人は本来人間と交配可能で、それが封印で妨害されてただけだろう」
「な? 妥当な推理だろ?」
「ああ、妥当だ。そしてあれから解析が進んで、再生漕を使わなくても封印が解除できそうな見通しも立っている」
「なんとまあ、そこまで来たのか」
「ところでだな。人間と交配可能な種族は人間に同等の存在とみなす、って法律知ってるか?」
「・・・あったな、そういうの。でもあれは、奴隷解放をする関係でできた法律じゃないのか」
「由来はこの際いい。良く考えろ、これらの情報が公開されれば、世間の獣人全てが、ペットじゃなくて人間の扱いになるんだぞ?」
「・・・あ」
それは、かなりの騒動と混乱を呼びそうだな、確かに。

「エミルがお前の子供を産んだのは、いずれ公開する事になるだろう。秘密にしてても、どうせ後続が現れるからな」
「だろうなあ・・・」
「きっとかなり揉めるだろうし、お前やエミルに騒動の矛先が向く事だって十分あり得る」
「そいつは要注意だな」
「そうなった場合、お前が有名人になってれば、少なくとも政治的な圧力で潰されるのは防げるだろ?」
「あ、なるほど」
「それに、エミルやその子にも、きちんとした権利欲しくないか? ならお前はその分も、頑張らなきゃ」
「そうか・・・そうだな。この子たちが育った時、ちゃんと学校にも行けて、仕事もできる世界にしなきゃいかんか」

可愛い子供のためにも、それは必須だろうな。確かにそうだ。
俺はエミルに向き直る。
「ごめんな、仕事から帰ったらお前を旅行に連れて行ってやると言ったけど・・・しなくちゃいけない仕事があるみたいだ。だから旅行は、もう少し先になりそうだ」
「うん、かえってくるのならいい。まってるから」
「うっ・・・ああ、絶対、ちゃんと帰ってくるさ」
エミルが一番怖いのは、相手が出て行ったまま帰らない事だ。既にフレッドでそれを経験したからな。
だから最初、まだフレッドの悪夢から間がない頃に、俺が出かけるたび不安そうだったんだ。
今回も、俺がなかなか戻ってこなかったから相当不安だったろうけどさ。
明確に何事かあったら誰か来るはずなのは教えてたから、逆に誰も来ないならまだ大丈夫だ、と我慢できたのかもしれない。

さて、今後どうするか、いつエミルの事を公表するか、そんな話をカイザと打ち合わる。
その途中でマークにも連絡を取ると、調査飛行とやらの件を受諾した。
やたらマークが嬉しそうなのは、また新しい技術系のネタを俺から教えて貰えそうだからかね?
無事に帰り着くまで余計な事ができないので、教えるのを保留してた物は色々あったからな。

そしてカイザは病院に帰って行き、俺は背伸びをする。
明日からも当分は忙しくなりそうだが、今晩はまだ、とりあえずゆっくりできるか。

寝室に入ると、エミルが子供を寝かしつけた所だった。
彼女も、考えてみれば目茶目茶大変だったはずだ。
たった一人で、助産婦すらいないまま5人の子供を出産し、後始末まで自分でやって、今日までずっと育ててきたんだ。
カイザの口利きで理解のありそうな手伝いを雇う事になったけど、これまでの一番つらい時を一人で乗り切ったんだ。
正直、すげえと思う。同じことが俺にできただろうか。ほんと、すげえよ。

エミルが俺に振り替えると、少し甘えた口調で言った。
「まさき、おねがい」
「ん、どうした」
「たねつけ、してほしい・・・」
「え」
「まだ、つぎのこども、できないけど、まさきに、たねつけ、してほしいの・・・」
「・・・ああ。おれも、エミルに種付けしたくて堪らなかったんだ」
子供がいるから無理させられないと思って口にしなかったが、本音を言うと俺だってエミルを抱きたかったんだよ。

ベッドは子供が占拠してるから使えない。でも子供からあまり離れるのは不安だからホテルなんて論外だ。
俺は居間から、ソファを抱えて寝室に持ってきた。
2人並んで座ると、俺はまずエミルにキスをする。濃厚に。
「ん・・・・」
エミルが喉声を出す。俺はその胸をふにふに、と揉んでやった。
ぴゅっ。
・・・そっか、今のエミルは乳が出るのか。一瞬何が噴き出たのかと思った。
勿体ないので舐めちまおう。

ちゅ。ちゅ。
「あうん・・・」
エミルが悶える。そりゃ俺は、赤子と同じ吸い方はせんからなあ。
ちゅうちゅう。うむ、甘い。
でも吸い過ぎて子供の分が無くなっちゃ困るので、ほどほどにしとこう。

うなじとか首筋とかぺろぺろ舐めてやり、おしりをすりすり撫でる。
「きゃう・・・きゃうん・・・」
ああ、いいなあ。可愛いなあ。
この可愛い声を聴きたくて、俺ははるばる別の宇宙から帰ってきたんだ。
なんか言葉にするととんでもない気がしてくるが、別に誇張はしてないよな。
まあそういう訳で、もう堪らん。ちと早いけど入れちまおう。

ちゅく・・・ぐりゅっ・・・みしっ。
「きゅぅ・・・あうん、あうん・・・」
相変わらず中は狭いな。ほんとにこいつ、これで5人も子供産んだ後なのか?
ああ、これは単なる言葉のあやだ。
あの子たちは、間違いなくエミルの産んだ俺の子だ。そんなの別にカケラも疑っちゃいない。

「あ、あっ・・・ましゃきぃ・・・あう・・・きゃふっ・・・」
中を突かれながら、ちょっと涙目のエミルが喘ぐ。
これは痛い訳じゃなさそうだ。もっと別の涙だな。
こっちまでもらい泣きしそうになりながら、俺はささやいた。
「エミル・・・これからも・・・ずっと・・・お前に種付けしてやるからな・・・」
「うん、うん、してぇ・・・たねつけ、して・・・」
「だから、絶対に・・・いつだって、お前の所に帰ってくる・・・必ず、帰ってくるからな・・・っ!」
「きゃうんっ・・・!」
俺の精液をおなかいっぱいに注ぎ込まれながら、エミルが仰け反り、甲高い声で鳴く。
帰ってくるさ。この可愛いエミルを泣かさないために。どんな所からだろうと、絶対に帰ってやろうじゃないか。

可愛い娘に見える物を、ペットにしたがる奴の気持ちは判らんでもない。
それは今もそうだ。
そしてエミルは、これからは人間って事になるんだろう。ペットじゃなくなる。
でも、それは本質じゃない。

前に俺は思ってた。人間っぽいものより、そのくらいなら本当の人間の女の方がいいって。
それは違うだろ?
人間もどきより人間のほうがいい?
そっくりなら、人間もどきの何が駄目なんだ?
区別しなきゃならんのか? 
人間かどうか関係ない。そいつを愛せるかどうかだけだ。
本当、判ったつもりなのと、実際にやってみてとじゃ違う。俺も青い。青すぎるわ。

だから相手が何であろうと、それが自分にとって、愛すべき可愛い存在なら。
心の底からそう思えるなら。好きになったのなら。
それはもうペットじゃない。ただの、大切な恋人さ。

<終わり>
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なげーよ Σ( ̄▽ ̄)

終盤の、青い宇宙の冒険(待て)は、最初はもっと尺あったんだけど削りました。エロ出てこないし!

あと人類と子供が作れる奴は人類だよ、の元ネタは銀河辺境シリーズから。